奨学金という制度は、経済的な理由で進学を諦めざるを得ない若者たちの背中を押してきた。しかしその中でも、「よりそい奨学金」は特別な意義を持つ制度だ。これは、犯罪被害に遭った家庭の子どもたちを対象とし、日本財団が提供している返済不要の給付型奨学金である。
殺人や傷害、交通事故など、突発的な犯罪により家族が命を落としたり、重い後遺症を抱えたりしたことで、家庭の経済状況が急激に悪化するケースは少なくない。その結果、子どもたちが夢を諦めてしまうこともある。そんな状況に「学ぶことを諦めないで」と差し伸べられるのがこの奨学金だ。
この制度の大きな特徴は、成績による条件がないこと。必要なのは「学びたい」という気持ちだけであり、その意志があれば支給は続く。しかも、他の奨学金制度との併用も可能で、より柔軟な支援が受けられる。給付金は在学する学校の種別に応じて月額1.3万円から5万円まで支給され、奨学生本人の口座に直接振り込まれる。これまでに800人以上が利用しており、現在も300人近い学生が制度を活用して学び続けている。
この奨学金を受けて進学した子どもたちは、事故や事件をきっかけに医療や介護の道を志すなど、強い意志をもって目標に向かっている人も多いという。悲しみを糧に、誰かを支える側へと歩み出す姿には、奨学金が単なる金銭的支援を超えて、人生の再出発を支える力となっていることが表れている。
「よりそい奨学金」は、日本財団の「みんなが、みんなを支える社会をつくる」という理念のもと、今も拡充が続けられている。子どもたちの未来が、突然の不幸によって閉ざされることのないように。この制度が、学びへの意欲を持つすべての子どもたちに届くことを願ってやまない。