三重県内の病院で働く薬剤師の不足が深刻化しています。特に院内薬局や病棟での業務を担う薬剤師が足りておらず、県内唯一の薬学部を有する鈴鹿医療科学大学や県がこの問題に取り組むため、待遇改善などの施策を進めています。
この薬剤師不足の背景には、県内で就職を選ぶ人が少ないことや、薬局やドラッグストアに比べて病院での給与が低いことが挙げられます。厚生労働省の2020年の統計によると、三重県は人口10万人あたりの薬局・病院薬剤師数で全国7番目に少ない171.7人で、特に病院薬剤師は36.4人と全国で2番目に少ない状況です。
過疎化が進む東紀州地域では特に薬剤師不足が深刻です。県薬務課は、薬剤師志望の若者が県外で就職する「地理的要因」と、ワークライフバランスを重視して病院より薬局を選ぶ「環境的要因」があると分析しています。
また、学生たちの間では、給与や働きやすさを考慮し、病院よりも給与が高いドラッグストアへの就職が人気を集めています。鈴鹿医療科学大学の2022年度の卒業生の進路では、ドラッグストアを含む薬局への就職者は11人増えた一方で、病院薬剤師としての就職者は4人減少しました。
さらに、厚労省の調査によると、薬局薬剤師の45.8%が奨学金を利用しており、私立大学の薬学部では卒業までに1,000万円以上かかることから、学生たちの経済的負担も大きく影響しています。
三重県は2026年度までに県内で確保すべき病院薬剤師の数を設定し、薬剤師確保計画を策定しました。病院と薬局の間での労働条件や待遇の格差を是正するため、診療報酬などの改定を国に要望する方針も示しています。今後、県と鈴鹿医療科学大学が協力し、待遇改善や人材確保に向けた施策を進めることが期待されています。