奨学金の返済が社会に出る若者にとって大きな負担となっている今、返済不要の制度があることは、未来を考える上で大きな希望になる。石川県の金沢医科大学が岩手県釜石市と連携して行っている「釜石枠」は、まさにその好例だ。
この制度は、釜石市出身の学生を対象に、4年間で合計300万円の奨学金を給付する仕組みになっている。ただし、注目すべきなのは、この奨学金が“給付型”でありながらも、返済が必要な条件付きであるという点だ。卒業後に4年間、釜石市内の指定医療機関で働けば、その返済が全額免除される。つまり、地域に戻り、その医療を支える人材になることで、学びのために得た資金が無償になるのだ。
この制度を初めて利用して卒業した女性が、今春から釜石市で看護師として働き始めた。看護の現場で奮闘する日々の中、奨学金返済の心配がないことで、医療に集中できる環境が整っているというのは、地域医療にとっても、本人にとっても大きなメリットとなる。
背景には、釜石市の医師・看護師不足という切実な課題がある。金沢医科大学は、20年以上にわたって医師を釜石市に派遣し、地域医療との連携を深めてきた。その延長線上にあるのが、この「釜石枠」という奨学金制度だ。ふるさとへの恩返しと、若者の未来の支援が同時にかなう仕組みになっている。
地域に戻る選択が、奨学金返済を免除するというこの制度は、他の地方にも応用可能なモデルになり得る。地方での人材不足を補いながら、若者にとっても安心して学び、働ける環境を提供する。それは、地方と若者が互いに支え合う関係を築く、新たな社会的なあり方の一つといえるかもしれない。