奨学金の返済は長期間に及ぶため、奨学金返済途中で転職を検討する方も多いでしょう。
転職により収入が増えれば、奨学金の返済にゆとりを持たせやすくなります。
また、福利厚生の内容によっては、奨学金返済のサポートを受けられることも転職するメリットです。
この記事では、奨学金返済中の転職において、押さえておきたいポイントを網羅的にご紹介します。
奨学金返済を続けながらも、安心してキャリアを築くポイントを確認し、理想的な転職先を見つけるヒントとしてご活用いただければ幸いです。
奨学金返済中の転職でよくある悩み
奨学金返済は、毎日の生活費と将来のキャリアプランに大きく関わるものです。
転職活動を始める前に、まず多くの人が抱える共通の悩みを確認しておきましょう。
毎月の返済額が生活費を圧迫している
奨学金は毎月返済しなければなりません。
特に若手社員の場合、一般的には給与水準が高いとは言えないため、数万円の奨学金返済が生活費を圧迫する可能性が高いでしょう。
奨学金返済を優先するために、食費を削ったり、家賃を抑えたりする必要が生じる場合もあります。
また、趣味や貯蓄、自己投資に回せる資金も限定されるため、奨学金返済がストレスになるケースも多いです。
収入が上がっても返済負担が減らない不安
奨学金の返済額は、原則として在学中に借りた総額と金利によって決まります。
そのため、転職により収入が上がったとしても、毎月の返済負担そのものが軽減されるわけではありません。
これは、現在の職場におけるキャリアアップや転職に対するモチベーションの維持・向上における大きな障壁となります。
仮に転職先で年収が大幅に上がったとしても、給与が高くなれば税金や社会保険料も増えるため、額面の収入増加が手取りの増加に直結しない場合もあります。
結果的に「努力して収入を増やしても、奨学金などの支出があるせいで生活が楽にならない」という閉塞感を抱く原因になりがちです。
転職後の返済スケジュール変更はできるのか
転職後に年収やライフスタイルが変わり、奨学金返済のスケジュールを変更したいと考える方も多いでしょう。
日本学生支援機構（JASSO）による奨学金には「減額返還制度」や「返還期限猶予制度」があり、個人の経済的な事情に合わせて制度の適用を申請できます。
ただし、制度の内容によっては利息の支払いを続ける必要が生じるほか、奨学金返済が免除されることもありません。
そのため、あくまでも一時的な措置として捉える必要があります。
転職による根本的な解決策は「手取りが増える企業に転職する」もしくは「返済負担を減らせる企業に転職する」のいずれかです。
収入面でのチェックポイント
奨学金返済を意識して転職する場合、額面上の収入だけを見て転職先を選ぶことはおすすめしません。
ここでは、転職における収入面でのチェックポイントを3つご紹介します。
月収・年収だけでなく「手取り額」を確認する
求人票には月収や年収が記載されていますが、これはあくまでも額面上の収入です。
実際には、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料といった社会保険料や所得税・住民税といった税金が差し引かれます。
奨学金返済は、社会保険料や税金を差し引いた後の手取り額から支払わなければなりません。
また、額面上の年収が同じでも、住宅手当や通勤手当の扱いによって手取り額が変動する点にも注意が必要です。
住宅手当が基本給に含まれている場合は所得税・社会保険料の課税対象となりますが、別枠で支給される場合は非課税となるケースもあります。
そのため、額面上の収入ではなく、手取り額を確認することが重要です。
賞与や昇給制度が安定しているか
手取り額のほかには、賞与（ボーナス）や昇給制度の安定性も確認しましょう。
賞与は夏と冬に支給されることが多く、奨学金返済では繰上返済の原資として活用しやすい収入です。
賞与は会社の業績に応じて変動する場合が多いため、直近の支給額だけではなく、過去数年間の平均的な支給額が安定しているかどうかも確認しましょう。
将来的なキャリアを考えると、昇給制度の明確さにも注目すべきです。
成果主義型の場合は、若手でも実力に応じて高収入を得やすくなります。
一方の年功序列型は、転職先の企業で今後数十年にわたって勤務する可能性が高い場合に有効です。
残業代・各種手当の支給条件を把握する
基本給だけでなく、残業代をはじめとする各種手当の支給条件も把握しましょう。
たとえば残業代の場合、「みなし残業制度」を採用している企業では、規定されている残業時間を超過するまでは残業代が支払われません。
現職がみなし残業制度を採用していない場合、みなし残業制度の企業に転職すると、労働時間が同じなのに収入が減る可能性があります。
役職手当や資格手当などが基本給と別に支給される場合は、手取り額を安定して増やしやすいです。
特に資格手当がある場合は、努力や自己投資が直接的に収入増につながります。
スキルアップやキャリアアップを目指している方にとって魅力的な手当と言えるでしょう。
福利厚生で差がつく！奨学金返済サポートの有無
転職先の条件として、収入面と同等以上に注目すると良いのが、奨学金返済サポートの有無です。
福利厚生の内容によっては、奨学金返済の負担を大幅に軽減できるため、有益な制度を確認しておきましょう。
住宅手当や交通費だけでなく「奨学金返済支援制度」に注目
奨学金返済支援制度とは、企業が奨学金返済を直接的にサポートし、従業員の手取りを増やすために設けられた制度です。
従来の福利厚生として一般的だった「住宅手当」や「交通費支給」は、あくまでも従業員の支出を減らすための支援制度でした。
しかし、奨学金返済支援制度は、企業がJASSOなどに直接奨学金返済額を支払う制度であるため、節税効果がさらに増します。
企業が直接返済してくれる「奨学金代理返還制度」とは
奨学金代理返還制度とは、JASSOが推奨する奨学金返済支援制度の一つです。
従業員の代わりに、企業が奨学金返済額の一部または全額をJASSOなどに直接送金して返済します。
給与として受け取った金額から奨学金返済を行う場合は、収入が所得税や社会保険料の対象となることが一般的です。
しかし、奨学金代理返還制度を利用すると、実質的に収入を減らしながら奨学金返済を行えるため、大きな経済的メリットを得られます。
返済支援を導入している企業が増えている背景
奨学金返済支援制度を導入する企業が増えた理由としては、次の3つを挙げられます。
＜返済支援を導入している企業が増えている背景＞
・優秀な人材確保や定着を目指す企業が増えたため
・賃上げ促進税制を活用する企業が増えたため
・社会貢献やブランディングを意識する企業が増えたため
これらの背景により、企業戦略の一環として、奨学金返済支援制度を導入する企業が増えているのです。
制度・税制面から見たメリット
企業が実施する奨学金返済支援制度は、単なる福利厚生ではなく、国が主導する賃上げ促進税制などとも密接に関わりを持つものです。
制度・税制面から見た、従業員と企業それぞれのメリットを確認しておきましょう。
奨学金代理返還は給与扱いになるので安心
企業が奨学金返済額をJASSOに直接送金する奨学金代理返還は、原則として給与や手当として扱われます。
ただし、特定の条件を満たす場合は給与扱いにならず、非課税として扱われる可能性もあります。
非課税となる場合、実質的な手取りが増えるため、将来設計の安心感が高まるでしょう。
企業にとっては賃上げ促進税制の対象になる
企業側のメリットは、賃上げ促進税制の対象として活用できることです。
賃上げ促進税制とは、企業が従業員の給与を増やすための政策です。
給与支給額を一定割合以上増やした企業は、賃上げ促進税制を活用することにより、給与増加額の一部を法人税から控除できます。
これにより、奨学金支援を通じて社員の待遇を改善しつつ、法人税の負担を軽減できることがメリットです。
社員・企業双方にメリットがある制度
奨学金代理返還制度は、社員と企業双方に大きなメリットをもたらします。
社員は奨学金返済の負担を軽減でき、実質的な手取りも増やせるため、生活にゆとりを持たせやすくなるでしょう。
浮いたお金を奨学金の繰上返済に回せば、返済期間を短縮できる可能性もあります。
企業は競合他社にはない独自の福利厚生で新卒者・転職者にアピールでき、優秀な人材の確保と定着率向上を実現しやすくなります。
また、税制優遇の対象となる可能性があり、法人税の負担を軽減することも可能です。
転職活動時に確認すべきポイント
奨学金返済の負担軽減を目的として転職活動をする際に、確認すべきポイントを3つご紹介します。
求人票の情報だけで判断せず、面接時に確認すべきことも知っておきましょう。
求人票だけでなく「面接時」に確認したいこと
求人票に「奨学金返済支援制度あり」と記載されていたとしても、具体的な内容や適用条件は企業によって異なります。
求人票で詳細を確認できない場合は、以下の点を面接時に質問しましょう。
＜面接時に質問すると良いこと＞
・自分自身が制度の対象者に含まれるのか
・支給期間や上限額に制限はあるのか
・支援される金額は課税されるのか、非課税となるのか
たとえば、制度の対象者が「新卒者のみ」に限られていると、中途採用で転職した従業員は制度を適用できません。
また、支援期間に限りがある場合や月々・総額の支給上限額が設けられている場合もあります。
十分サポートを受けられるのか、面接時に確認しておきましょう。
奨学金返済支援があるか、将来的に導入予定があるかを聞く
求人票には現状の福利厚生だけが記されているケースが多いです。
そのため、現在は奨学金返済支援制度がなくても、将来的に制度を導入する予定を立てている可能性があります。
気になる企業がある場合は、面接時に「奨学金返済支援制度のような福利厚生の拡充を検討しているか」「導入する場合、新卒者以外にも制度を適用する可能性はあるか」といった質問をしましょう。
導入を検討する予定があると解答を得られた場合は、待遇改善に前向きな優良企業と考えられます。
福利厚生制度を比較する際のチェックリスト
複数の企業から転職先を比較・検討する場合は、以下のチェックリストを活用して、企業ごとの待遇を総合的に評価しましょう。
＜福利厚生制度を比較する際のチェックリスト＞
□月々の手取り額はいくらになるか
□昇給率や賞与が安定しているか
□奨学金返済支援制度を導入しているか
□住宅手当などその他の手当が充実しているか
□定年まで働いた場合に退職金をいくら受け取れるか
これらのチェックリストからから企業を評価して、奨学金返済後に残る所得が多い企業を選ぶことが生活の質を高められる企業を選ぶポイントです。
奨学金返済中でも安心してキャリアを築くために
奨学金返済が今後十数年にわたって続くとしても、決して悲観する必要はありません。
奨学金返済を続けながらも、安心してキャリアを築くために確認すると良いポイントを3つご紹介します。
返済負担を軽減できる会社を選ぶ
転職において重要なのは、奨学金の返済負担を軽減できる会社を選ぶことです。
特に、奨学金返済支援制度があり、従業員が背負う奨学金の返済負担を直接的に軽減してくれる企業を選ぶことにより、経済的なメリットを得やすくなります。
たとえば、手取り年収500万円で奨学金支援制度がない会社よりも、手取り年収480万円で月々2万円の奨学金支援を受けられる会社を選んだほうが、実質的な年収は4万円増加します。
住宅手当や資格手当など、その他の手当も加味することにより、可処分所得がさらに増えて経済的なゆとりが生まれるでしょう。
福利厚生を含めて「総合的な待遇」で判断する
給与だけでなく、福利厚生を含めた総合的な待遇で転職先の良し悪しを判断しましょう。
特に奨学金代理返還制度を導入する企業は、社員の人生を大切に考えるホワイト企業である可能性が高いです。
給与や仕事内容、勤務地といった一般的な条件に加えて、福利厚生も判断材料に加えることをおすすめします。
将来設計とライフイベントに合わせた転職を
奨学金返済の期間は、結婚や出産、住宅購入といった重要なライフイベントと重なる可能性が高いです。
いつまでに奨学金返済を完了したいのか、ライフイベントで必要な資金はどのくらいなのかといった将来設計を立て、それを実現できる転職先を選びましょう。
賞与や各種手当が多い企業を選ぶことにより、奨学金の繰上返済もしやすくなります。
奨学金返済支援を導入している企業に出会う方法
奨学金返済支援はまだまだポピュラーな福利厚生とは言えません。
制度を導入している転職先と出会うために、ここでご紹介する3つのポイントを意識して探しましょう。
求人サイトや転職エージェントで探す
効率良く転職先を探すために重要なのは、求人サイトや転職エージェントを利用することです。
求人サイトを利用する際は「奨学金」「代理返還」といったキーワードから転職先を探しましょう。
転職エージェントを利用する場合は、担当のキャリアアドバイザーに「奨学金返済支援を行う企業に転職したい」と伝えればOKです。
福利厚生に力を入れている企業は業界を問わず増加中
奨学金返済支援を含む福利厚生に力を入れている企業は、特定の業界に偏っていません。
現在は多くの企業が人材の確保と定着に課題を抱えているため、業界を問わずに広く転職先を探せます。
業界を絞り込むのではなく、社員の待遇に力を入れている企業を探すことが、奨学金返済支援を導入する企業と出会う近道です。
奨学金バンクのような専門サービスを通じて情報を得る
奨学金バンクとは、奨学金返済支援制度を導入する企業を紹介するプラットフォームです。
奨学金バンクを利用すると、支援制度の詳細や導入事例も比較しながら転職先を検索できます。
奨学金返済支援は福利厚生の中でも新しい制度であるため、奨学金バンクのような新しいサービスを利用して検索するのが効率的です。
まとめ
奨学金返済中の転職は、結婚や出産、住宅購入といったライフイベントを不安なく迎えるためにも懸命な手段です。
転職先を選ぶ際は、額面の収入ではなく、手取りの収入を比較しましょう。
また、奨学金返済支援制度や住宅手当など、福利厚生の有無を含めた総合的な待遇で判断することが大切です。
奨学金バンクなどの新しいサービスも活用しながら、理想的な転職先を見つけてください。
