若手人材の獲得競争が激化する中、社員の奨学金返済を企業が肩代わりする「奨学金代理返還制度」の導入が全国で広がっている。日本学生支援機構(JASSO)が2021年に開始したこの制度は、企業が従業員に代わって奨学金を直接返済できる仕組みで、2025年4月末時点で全国3464社が利用しており、導入からわずか4年で10倍以上に増加した。
とくに九州では拡大が著しく、利用企業数は317件と16.7倍に。福岡県だけでその半数以上にあたる179件を占めており、地場の中小企業から大手まで制度導入が進んでいる。
福岡市の建設会社「松本組」では昨年4月から制度を導入し、グループ全体で社員10人の奨学金を返済中。注目すべきはその対象範囲で、支援は新卒に限らず全社員に広がっている。現在返済支援を受けている社員の約9割は入社3年以上の中堅社員で、社歴10年を超える人も含まれるという。
制度では、在籍している限り月額最大2万円の返済を無制限で継続。今年4月に入社した新卒社員にも返済支援が始まる予定で、「会社を選ぶ決め手になった」と語る声も出ている。
松本組の豊福博文執行役員は「全社員を対象にすることで、学生に“社員を大切にする会社”という印象を持ってもらえる。採用強化だけでなく、定着率の向上にもつながる」と語っている。
一方、九州電力やJR九州、九電工などの大手企業も制度を導入しているが、現時点では対象を新入社員に限定している場合が多い。だが、今後は地場の中堅企業も含めて、より幅広い社員に支援の対象を広げる動きが強まると見られている。
この制度の導入を後押ししているのは、国の税制上の優遇措置も大きい。企業が返済する奨学金は従業員の給与扱いとなり、「賃上げ促進税制」の対象となることで法人税の控除を受けられる可能性がある。こうした制度的整備も、導入企業の拡大に拍車をかけている。
就活シーズンが本格化する中、企業は「選ばれる側」としての価値を高める必要に迫られている。就職情報会社マイナビの調査によれば、学生が企業を選ぶ際の基準として「給料の良さ」や待遇面への関心が年々高まっており、奨学金返済支援制度はまさにそのニーズに応える施策となっている。企業の新たな福利厚生のかたちとして、今後ますます注目を集めそうだ。
出典元:企業の“奨学金代理返還”全国で10倍に拡大…新卒社員「決め手の一つになった」 “全社員”対象の企業も|Yahooニュース