奨学金の返済は最長で20年と長期間に及ぶため、その間には病気や失職といったライフイベントが発生するかもしれません。
奨学金の返済が難しくなった際に覚えておくと良いのが、奨学金返済の「一時停止」制度です。
この記事では、奨学金返済の一時停止とは何か、申請が必要になった場合の手続方法や注意点などを解説します。
奨学金返済の一時停止制度とは?基本を解説
なんらかの事情により奨学金返済が困難になった場合、危機を脱するための対策として覚えておくと良いのが一時停止制度です。
まずは一時停止制度の概要や一時停止が必要とされている背景、そして一時停止を利用できる奨学金の種類をご紹介します。
一時停止制度の概要
厳密に言えば、奨学金に「一時停止」という制度はありません。
ただし、日本学生支援機構(JASSO)の「返還期限猶予制度」または「減額返還制度」は、実質的な奨学金返済の一時停止制度と言えます。
これらの制度を利用すると、奨学金の返済を一時的にストップすることが可能です。
制度を適用するためには、JASSOが定めた要件を満たしたうえで、申請を行わなければなりません。
審査で制度の適用が認められると、奨学金の返済が一定期間にわたり免除されます。
なぜ一時停止制度が必要なのか?
一時停止の必要性が認められている理由は、経済的困窮などの事情により、奨学金の返済が不可能になる学生を減らすためです。
病気や被災、失業などの事情により奨学金の返済が困難になった人を救済するために、奨学金の返済を一時停止して生活の立て直しを支援しています。
また、学業や仕事に集中できる環境を整えることも、一時停止の制度を導入している理由の一つです。
万が一の際に奨学金の返済を一時停止できれば、金銭的な理由により学業から離れたり、破産を防いだりしやすくなるため、不安やストレスを抱えて生活をせずに済みます。
利用できる奨学金の種類
一時停止の対象となる奨学金の種類は、主に日本学生支援機構(JASSO)が貸与する奨学金です。
具体的には、「第一種奨学金」と「第二種奨学金」がこれに該当します。
JASSO以外の奨学金制度を利用している場合は、それぞれの奨学金の規約を確認し、返済の一時停止が可能か確認しましょう。
奨学金返済を一時停止するための条件とは?
奨学金返済の一時停止は、すべての奨学生が利用できるわけではありません。
申請が認められるのは、一定の条件を満たした人物だけです。
ここからは、一時停止を申請できるケースや制限、そして必要書類などについて解説します。
一時停止を申請できるケース
奨学金の一時停止を申請できるのは、なんらかの事情により返済が困難な状況に置かれている方だけです。
ここでは、日本学生支援機構(JASSO)が定めている主な基準をご紹介します。
<一時停止を申請できるケース>
・給与所得が年間300万円以下であること
・本人の傷病により就労と返還が困難であること
・地震や台風などの災害により被害を受け、返還が困難であること
・失業に伴い返還が困難であること
・出産や育児による休業で返還が困難であること
・大学や専門学校などに在学しており返還が困難であること
・海外で生活しているため返還が困難であること
・卒業直後などの理由で低収入または無収入であり、返還が困難であること
・生活保護を受給しており返還が困難であること
上記のいずれかに該当する場合は、奨学金返済を一時停止できる可能性があります。
利用対象者の制限について
先述した条件を満たしていたとしても、その他の事情により利用対象者に制限が設けられる場合があります。
たとえば、返済状況については原則として延滞がないことが望ましく、すでに延滞が発生している場合は審査が厳しくなるでしょう。
なお、年齢の上限による制限は基本的に設けられていません。
審査の基準と必要な書類
一時停止の申請を行うと、申請者が返済困難な状況に置かれているかどうかについて厳しい審査が行われます。
主な審査内容は、日本学生支援機構(JASSO)が設けている所得基準を満たしているか、そして申請内容に合った証明書が添付されているかです。
必要書類は申請するケースによって異なります。
たとえば、傷病の場合は医師の診断書のコピー、災害の場合は罹災証明書のコピー、失業の場合は雇用保険受給資格者証や離職票のコピーが必要です。
なお、収入の証明が必要な場合は、前年分の源泉徴収票や住民税課税証明書のコピーを提出します。
奨学金返済の一時停止の手続き方法と流れ
奨学金返済を一時停止したい場合は、必要書類を用意したうえで、所定の手続きをする必要があります。
ここでは、申請手続きの具体的な流れについて、手続きの注意点も含めながら見てみましょう。
申請手続きの具体的な流れ
奨学金返済の一時停止を希望する場合の申請手続きの具体的な流れは次の通りです。
ここでは、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を利用しているケースを想定してご紹介します。
<申請手続きの具体的な流れ>
・ステップ1:日本学生支援機構(JASSO)に相談する
・ステップ2:必要な書類を用意して申請の準備をする
・ステップ3:用意した書類をまとめて、郵送またはオンライン申請で提出する
・ステップ4:JASSOによる審査結果を待つ
・ステップ5:承認された場合、猶予期間や返還開始年月を確認する
・ステップ6:返還開始年月から返済を再開する
まずはJASSOの相談窓口に問い合わせを行い、現状を伝えて、一次停止制度を活用できるか確認しましょう。
必要書類については次の項目で詳しくご紹介します。
申請時に必要な書類一覧
一時停止の申請時に必要となる書類をご紹介します。
書類は「共通して必要な書類」と「申請する理由ごとに必要な書類」に分かれるため、それぞれを細かく確認しておきましょう。
<共有して必要な書類>
・奨学金返還期限猶予願(猶予願)
・チェックシート
・本人確認書類のコピー(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、在留カードなど)
・マイナンバー提出書(JASSOに未提出の場合のみ)
奨学金返還期限猶予願は、日本学生支援機構(JASSO)の公式ホームページからダウンロードできます。
この書類に、返済を一時停止したい具体的な理由を記載して、その他の書類とあわせて提出することが基本です。
【申請する理由ごとに必要な書類】
経済困難:源泉徴収票、住民税課税証明書、確定申告書などのコピー
傷病:医師の診断書のコピー
災害:罹災証明書のコピー
失業:雇用保険受給資格証、離職票、退職証明書のコピー
出産・育児:母子健康手帳、勤務先の休業証明書のコピー
在学:在学証明書
生活保護受給中:生活保護受給証明書(2ヶ月以内に発行されたもの)
奨学金返還期限猶予願に記載した一時停止を希望する理由に添う書類を用意しましょう。
手続きの注意点とよくあるミス
手続きのミスとして頻発しているのは書類の不備です。
一時停止を申請する理由に合った必要書類の提出が必要なため、添付する書類の内容を間違えないように注意しましょう。
「発行から2ヶ月以内のもの」といった条件が付く書類があることにも注意が必要です。
また、申請を行ってから審査結果が通知されるまでには約1ヶ月〜2ヶ月と時間がかかります。
審査期間中の返済期日には通常通り奨学金が引き落とされるため、時間に余裕を持って申請を済ませましょう。
万が一引き落としが困難な場合は、事前に日本学生支援機構(JASSO)に相談することをおすすめします。
一時停止制度を利用する際のメリットとデメリット
奨学金返済の一時停止は、返済困難に追い込まれた方にとってメリットが大きい制度です。
ただし、覚えておかなければならないデメリットもいくつかあります。
一時停止の注意点もあわせて確認したうえで、改めて制度を利用するかどうかを検討しましょう。
一時停止制度のメリット
奨学金の返済を一時停止するメリットは次の通りです。
<一時停止制度のメリット>
・一定期間にわたり、月々の奨学金返済額がゼロになる
・第二種奨学金の場合、猶予期間中は利息がかからない
・返済困難による延滞や滞納を予防できる
・猶予期間は最長10年間と長い
申請が認められた場合、猶予期間中の奨学金返済額がゼロになるため、返済困難による奨学金の延滞・滞納を予防できます。
個人信用情報機関に事故情報が登録されることもなく、将来の住宅ローン審査やクレジットカードの発行などに悪影響が及びません。
一時停止制度のデメリット
一時停止制度のデメリットは次の通りです。
<一時停止制度のデメリット>
・奨学金を完済するまでの期間が延びる
・利用できる回数や期間に制限がある
・猶予期間を延長する場合は最新性が必要になる
制度はあくまでも一時停止であり、猶予期間中の支払いが免除されるわけではありません。
そのため、奨学金を完済するまでの期間が延び、将来のライフプランに影響を与える可能性があります。
利用する際に知っておくべき注意点
利用期間と回数に制限が設けられることが注意点です。
返還期限猶予制度を利用する場合、1回の申請につき1年以内、通算10年間(120ヶ月)が利用期間と回数の上限になります。
2年目以降も継続して一時停止を利用したい場合は、猶予期間が満了する前に再申請を行いましょう。
また、根本的な解決策にはならないことも注意点の一つです。
仮に1年間の一時停止が認められたとしても、1年後の経済状況が現在と変わらなければ、返済困難な状況は続いてしまいます。
次でご紹介するように、奨学金返済の一時停止中には返済再開に向けた準備を整えることが大切です。
奨学金返済の一時停止中に考えるべきこと
奨学金返済の一時停止は、あくまでも一時的な返済負担を軽減するものです。
奨学金が帳消しになるわけではないため、将来的には返済を再開しなければなりません。
無理なく奨学金の返済を再開するために、一時停止中に考えると良いことを3つご紹介します。
一時停止期間中の生活費の見直し
奨学金の一時停止期間中は生活費の見直しを行いましょう。
収入と支出の全体像を確認し、無駄な支出を減らすことにより奨学金の返済を再開しやすくなります。
特に高額な生活費がかかるのは、家賃や水道光熱費、通信費といった固定費です。
家賃の安い賃貸物件に引っ越したり、電気代の節約に努めたり、格安SIMに乗り換えてスマホ代を安くしたりといった対策を講じると良いでしょう。
返済再開に向けた準備
認可時に提示された猶予期間が終了すると、奨学金の引き落としが自動的に再開されます。
日本学生支援機構(JASSO)から届く「返還期限猶予承認通知」には、返済再開日と返済額が記載されているため、必ず確認しておきましょう。
奨学金の返済額を用意できるかどうかは、「月収の手取り−固定費−変動費」で残金を計算するとわかります。
残金で奨学金の返済額を賄えない場合は、支出の見直しを行い、節約できるポイントを見つけましょう。
どうしても費用を捻出できなければ、一時停止の再申請を視野に入れる必要があります。
副収入や支援制度を活用する方法
支出を減らす対策だけでなく、収入を増やす対策も有効です。
規則内でできる副業で得た副収入を、奨学金の返済に充てる方法もあります。
また、企業によっては「奨学金肩代わり制度」を導入している可能性があります。
制度を適用できる場合、月々の奨学金返済額のうち一部または全額を会社側が負担してくれるため、このような支援制度を利用できないか調べましょう。
奨学金返済を一時停止できない場合の代替策
奨学金返済の一時停止を利用するためには審査が必要であり、これに通過できなければ一時停止は認められません。
一時停止できないケースを想定して、代替策を3つご紹介します。
返済期間の延長制度を利用する方法
日本学生支援機構(JASSO)の「減額返還制度」は、月々の返済額を減額する代わりに、返済期間を延長する制度です。
こちらも審査を受ける必要がありますが、一時停止制度とは審査基準が異なります。
一時停止が認められなかった場合は、延長制度の利用を検討しましょう。
返済額を減額する制度の活用方法
先述した減額返還制度は、通常の返済額に対して4分の1または3分の2の返済額に減額できる制度です。
たとえば、毎月20,000円の返済が必要なケースでは、4分の1への減額を申請することにより、月々の返済を5,000円に抑えられます。
相談窓口での対応策を確認する重要性
日本学生支援機構(JASSO)は、奨学金の返済に苦慮する方と誠実に向き合っており、いくつかの救済的な制度を用意しています。
相談窓口に問い合わせることにより、個別具体的なアドバイスを受けられるため、自分にとって最適な対応策を見つけることが可能です。
奨学金の返済に困ったら、滞納して放置するのではなく、まずJASSOの相談窓口に連絡しましょう。
奨学金返済の一時停止に関するよくある質問と回答
この記事の最後に、奨学金返済の一時停止に関するよくある質問にお答えします。
それでも不明な点が残る場合は、日本学生支援機構(JASSO)の相談窓口に問い合わせましょう。
一時停止制度の申請期間はいつまで?
奨学金を滞納していない方の場合、申請期間は、猶予開始希望月の3ヶ月前〜前々月末までです。
たとえば、7月から一時停止を利用したい場合は、4月1日〜5月31日までの間に申請しましょう。
一時停止制度の利用は信用情報に影響する?
一時停止制度を利用する場合は延滞や滞納とみなされないため、信用情報に影響することはありません。
ただし、申請が認可されるまでの間に支払い遅延が発生すると、信用情報に影響する可能性があります。
できるだけ早く一時停止の申請を行い、その間の引き落としが間に合わない場合は、日本学生支援機構(JASSO)の相談窓口に連絡しましょう。
一時停止後の返済はどうなる?
一時停止期間満了後は、自動的に奨学金の引き落としが再開されます。
一時停止期間中に生活費を見直して、一時停止後に無理なく返済できるよう対応しましょう。
まとめ
奨学金返済の一時停止制度とは、一定期間にわたって奨学金の返済が免除される制度です。
なんらかの事情により経済的困窮な状況に陥った場合は、必要書類とまとめて提出・申請すると、一時停止が認められる可能性があります。
ただし、一時停止は返済免除とは異なるため、一時停止期間中に生活を見直し、一時停止期間満了後に返済を再開できるよう対応しましょう。