
大学や専門学校を卒業し、社会へと踏み出す若者にとって、奨学金返済は大きな経済的負担となります。
いわゆる奨学金問題には、当事者以外も関心を示しており、奨学金返済を行う若者を支援する制度を提供する自治体が増えてきました。
この記事には、奨学金返済免除制度の概要から、制度が日本全国に広がりを見せている背景、そして北海道から沖縄まで地域別に主要な制度の概要をまとめました。
この記事を参考に、お住まいの自治体が行う奨学金返済免除制度を見つけて、奨学金返済負担の軽減にお役立てください。
奨学金返済免除制度とは?基本の仕組みを解説
奨学金返済免除制度とは、奨学金の貸与を受けた人が一定の条件を満たした場合に、返済額の全額または一部を免除される仕組みです。
ここでは、国の制度と自治体独自制度の違いや返還免除が認められる一般的な条件などについて解説します。
国の制度と自治体独自制度の違い
奨学金返済免除制度は、大きく国の制度と自治体独自の制度に分けられます。
国の制度は、日本学生支援機構(JASSO)が実施する制度です。
優れた成績を上げた学生を対象とする返還免除制度があり、適用が認められた場合は、在学中に受け取った奨学金を返済する必要がありません。
自治体独自の制度は、地域の人材不足解消や地方創生を目的として、各自治体が独自に設けている制度です。
自治体が認可した業種や企業において、一定期間働くことを条件に奨学金返済が免除されるケースが目立ちます。
返済免除の一般的な条件
地方自治体による返済免除の条件はさまざまですが、一般的には次の3つの要素で決まる場合が多いです。
<返済免除の一般的な条件>
・職種:医療従事者や教員、介護士、技術職など
・勤務地:過疎地域など自治体により指定された地域
・期間:奨学金貸与を受けた期間と同期間など
対象となる奨学金(JASSO、自治体奨学金など)
返済免除の対象となる奨学金も、利用する返済免除制度によって異なります。
多くの学生が利用しているJASSOの奨学金は、多くの自治体が返済免除の対象とするケースが多いです。
一方、自治体奨学金の場合は、その地域において指定された業種に就く方だけに適用されるケースが目立ちます。
自治体奨学金は、JASSOの奨学金と比較して、貸与そのものの審査が厳しくなりがちです。
奨学金返済免除制度が広がる背景
自治体独自の奨学金返済免除制度が全国的に増加している背景には、日本が抱える深刻な課題が見え隠れします。
ここでは、返還免除制度が日本全国に広がる背景を3つのポイントに分けて解説します。
地域医療・教育の人材不足への対応
日本における人口は東京や大阪といった都市部に集中しており、地方では医師や看護師などの医療従事者、学校の教員といった専門職の人材不足が深刻化しています。
特に過疎地域では慢性的な人材不足に苦しんでおり、このような課題を解消するための手段として、奨学金の返済免除制度を導入するケースが多いです。
地方創生と移住促進の取り組み
政府が進める地方創生の取り組みの一環として、自治体は若者のUターン・Iターンを積極的に推進しています。
奨学金返済免除は、若者の移住を促す取り組みの一環です。
単なる労働力確保ではなく、地域社会全体の活性化や世代交代を促す狙いとして、返済免除制度を取り入れています。
若者の地域定着を支援する狙い
返済免除制度における最大の狙いは、若者に地域に定着してもらうことです。
一定期間の勤務を義務付けることにより、若者が地域社会に溶け込んだり、地域に愛着を持ったりして、その地域に定着することを期待しています。
返済免除により発生する金銭的な負担と引き換えに、地域の未来を担う若者を確保して、長期的に地域を支えてもらいたいと考えているのです。
地域別 奨学金返済免除制度一覧
奨学金の返済免除制度は、日本全国の自治体が導入しています。
ここでは、日本全国を6つのエリアに分けて、それぞれの地域で提供されている奨学金返済免除制度の代表例をご紹介します。
北海道・東北エリアの返済免除制度まとめ
北海道・東北エリアの共通点は、広大な土地を有する一方で、住民の高齢化による人材不足が顕著であることです。
特に医療・福祉分野の人材不足が深刻化しています。
北海道では、地域医療従事者を対象とする返済免除制度が充実しています。
過疎地域の公立病院で働く医師や看護師を対象とする制度が特に多く、一定の勤務期間を全うすることと引き換えに、奨学金の返済が免除されるケースが多いです。
東北エリアでは、秋田県や山形県などにおいて、公立学校の教員に代表される公務員を対象とした返済免除制度が多く見られます。
各県が指定する教育機関に採用された人材を対象とする制度が目立ち、教育分野への就職を目指す学生にとって魅力的な地域です。
関東エリアの返済免除制度まとめ
関東エリアでは、特に都心部から離れた地域に返済免除制度を導入する自治体が目立ちます。
たとえば、群馬県では地方部での医療を担う医師や看護師を対象とする返済免除制度があり、地域医療奨学金はその代表例です。
千葉県の一部の市町村においても、住宅の購入または賃借により定住することを条件に、若者へ返済免除制度を提供する自治体があります。
中部エリアの返済免除制度まとめ
中部エリアは、工業地帯と山間地域が混在し、地域ごとのニーズに合った返済免除制度があります。
たとえば、長野県は看護師や介護士を対象とした奨学金制度が充実していることが特徴です。
岐阜県の一部には、Uターン・Iターンの若者を対象に、返済免除制度を提供する自治体があります。
また、福井県は技術系の人材確保を目指しており、県内企業への入社を条件に返済免除制度を提供する事例があります。
近畿エリアの返済免除制度まとめ
近畿エリアには、医療・福祉分野の地域偏在を是正する取り組みとして、返済免除制度を提供する自治体が多いです。
たとえば、和歌山県では医師や看護師を対象とした奨学金制度があり、県内の公立病院などに勤務した場合は、この返済が免除されます。
また、滋賀県は教育分野に特化した返済免除制度を用意しており、県内の公立学校に勤務することを条件に、教員の奨学金返済を免除する制度を提供する場合があります。
中国・四国エリアの返済免除制度まとめ
中国・四国エリアも、地方創生に向けた取り組みとして、医療・福祉分野の人材確保を目指す地域です。
たとえば、愛媛県には僻地医療を担う意思を対象とした奨学金制度があり、一定の条件を満たすと返済が免除されます。
広島県には地域定着型の返済免除制度があり、特定の地域に定住・就職することを条件に、奨学金返済を補助しています。
鳥取県では、農業・林業を担う若手の奨学金返済を免除するケースが多いです。
九州・沖縄エリアの返済免除制度まとめ
九州・沖縄エリアには離島が多いこともあり、医療・福祉分野の人材確保が急務です。
特に長崎県は医療・福祉人材向けの返済免除制度が充実しており、離島・僻地勤務を条件に制度を適用できます。
沖縄県には、地域医療枠や離島勤務を条件とする奨学金制度があり、一定の条件を満たした場合は、この返済が免除される場合があります。
自治体別制度を活用するための条件と注意点
自治体別の返済免除制度を活用するためには、厳しい条件をクリアしなければなりません。
ここでは、自治体別制度を利用する前に知っておきたい注意点を3つご紹介します。
対象職種・勤務地・勤務期間の条件
返済免除制度を適用するための条件として設けられることが多いのが、対象職種、勤務地、そして勤務期間の3つです。
免除を受けるためには、自治体が指定する職種を選び、指定された勤務地において、一定期間にわたり継続的に働く必要があります。
特に勤務期間の条件は厳格に定められるケースが多く、1日でも不足すると返済免除の対象外となりかねません。
途中で退職したり、別の地域に移住したりすると、返済免除が取り消されるだけでなく、これまでに免除された返済額を一括で返済するよう求められる場合もあります。
申請時期・手続きの流れ
自治体が独自に行う返済免除制度は、JASSOの奨学金と比較して申請時期が早いため注意しましょう。
手続きの流れは返済免除制度の内容によって異なります。
一般的には、まず自治体に申請して審査を受け、指定された企業に就職し、義務期間を満了した後に返済免除が適用されるという流れが基本です。
返済免除までの期間と返済額の目安
返済免除までの期間は、3年~10年程度に設定されるケースが多いです。
この間は、自治体に指定された地域に住み、自治体に認可された機関で勤務を継続しなければなりません。
免除額は全額となるケースが多いですが、制度によっては総返済額の2分の1、あるいは3分の1程度に留まる場合もあります。
返済免除制度を利用するメリット・デメリット
返済免除制度を利用すると、奨学金返済の負担がなくなるため、日々の暮らしにゆとりが生まれやすくなるでしょう。
しかし、返済免除制度にはいくつかの注意点もあるため、利用するメリット・デメリットを事前に把握することが大切です。
ここでは、返済免除制度を利用するメリットとデメリットをご紹介します。
返済負担軽減とキャリア形成の両立
最大のメリットは、奨学金返済による経済的負担から解放されることです。
これにより、給与を交際費や預貯金に回しやすくなり、住宅購入や結婚といったライフイベントも計画的に進められるでしょう。
また、地域社会の一員として活躍することにより、仕事にやりがいを感じられることもメリットの一つです。
勤務地や職種が限定されるリスク
返済免除制度のデメリットは、勤務地や職種が固定されることです。
キャリアチェンジや新たな環境へのチャレンジが制限されるため、人によっては窮屈な思いをするでしょう。
指定された地域や職種が、長期的に見て自身のキャリアプランに適合しない場合、キャリアの選択肢を狭めてしまいます。
長期的なキャリアプランとのバランスの取り方
返済免除制度を利用する際は、長期的なキャリアプラントのバランスを取ることが大切です。
義務として定住や勤務が定められている期間は、最初のキャリアステップに必要な期間として割り切ると良いでしょう。
その間に培ったスキルを、義務期間終了後のキャリアステップに活かせるように準備することが、リスクの最小化とメリットの最大化につなげるポイントです。
返済免除制度と併用できるその他の支援
自治体の返済免除制度以外にも、若者の地域定着を支援する制度が存在します。
制度の内容によっては併用できる可能性があるため、その他の支援の内容も確認しておきましょう。
奨学金返済補助を行う企業の福利厚生
自治体の制度とは別に、企業独自の奨学金返済補助制度を利用できる場合があります。
特に地方の中小企業や地域に根差した医療法人などは、自治体の制度の対象外であっても、若手社員の定着のために奨学金の返済支援を行うケースが多いです。
企業による福利厚生と自治体の返済免除制度を併用することにより、経済効果を最大化できます。
自治体の移住支援金や住宅補助制度
地方自治体は、奨学金支援以外にも移住・定住支援の制度を用意している場合があります。
たとえば、移住支援金は、首都圏などから地方都市に移住して、指定された企業に就職した場合に支給される補助金です。
若手社員に向けて家賃を補助したり、住宅購入時に大幅な割引を行ったりなど、住宅に関する優遇制度を設ける地方自治体もあります。
これらの制度は、奨学金返済に対して直接的に影響を与えるものではありません。
しかし、生活費や固定費を大幅に削減できるため、間接的に奨学金返済にかかる負担を軽減できます。
国の減額返還・返還猶予制度との組み合わせ方
自治体が行っている返還免除制度を適用できない場合や自治体による審査が奨学金の引き落としに間に合わなかった場合は、JASSOの減額返還や返済猶予制度を利用できる可能性があります。
減額返還とは、奨学金の支払期間を延長する代わりに、月々の返済額を減額できる制度です。
また、返還猶予制度を利用すると、経済的な事情で奨学金返済が困難になった場合に、一時的に返済を先延ばしできます。
自治体による免除制度とJASSOの救済制度を組み合わせることによって、奨学金の支払いを延滞するリスクを大幅に軽減できるでしょう。
返済免除制度を探すときの情報収集方法
この記事でご紹介した返済免除制度は、あくまでも一例に過ぎません。
その他の都道府県や地方自治体でも、奨学金の返済免除制度を導入している場合があります。
ここでは、返済免除制度を探すときの情報収集方法を3つのポイントに分けて解説しましょう。
自治体の公式サイト・奨学金関連ページの活用
正確かつ最新の情報は、地方自治体の公式サイトに掲載されています。
「移住・定住」「地域振興」といったページがある場合は、この項目に返済免除制度の詳細が記載されている可能性が高いです。
特定の自治体の情報を調べたい場合は「自治体名+奨学金免除」といったキーワードで検索すると、情報を見つけやすいでしょう。
就職・転職エージェントや大学キャリアセンターの情報
特定の地方自治体や地域に強い就職・転職エージェントは、その自治体が実施する制度の詳細を把握している可能性が高いです。
また、大学のキャリアセンターや地域連携センターも、自治体の制度情報を集約している場合があります。
エージェントや大学の窓口に相談することにより、返済免除制度を提供する自治体を効率良く見つけられるでしょう。
奨学金バンクなど返済支援サービスの活用
奨学金バンクとは、奨学金返還支援制度を導入する企業の情報を包括的に提供するプラットフォームです。
奨学金返還支援制度を導入している企業情報のみを掲載しているため、返済免除制度や返還支援制度を提供する企業を簡単に見つけられます。
このような返還支援サービスは、制度を導入する企業を詳しく比較検討する際にも役立つでしょう。
まとめ
奨学金の返済免除制度は、日本全国の自治体が積極的に取り入れています。
これは、地域社会の課題解決と若者の経済的自立を両立する制度であり、奨学生と自治体がウィンウィンの関係を築けるものです。
自治体の公式HPから情報を検索したり、奨学金バンクなどのサービスを活用して制度を導入する企業を比較したりして、自分自身のキャリアプランとライフプランを実現できる就職先・転職先を見つけましょう。