奨学金の返済負担は、若手社員の生活を圧迫しているとの指摘が根強く、実際に離職やキャリア停滞を招くケースが多いと言われています。
このような現状で注目されているのが、企業側が実施する奨学金返済支援制度です。
この記事では、奨学金返済支援制度の概要や従業員満足度への影響、企業文化への波及効果までをわかりやすく解説します。
制度を導入するメリットと注意点を確認し、制度を企業ブランディングに活かしましょう。
奨学金返済支援制度とは?
まずは奨学金返済支援制度の基本を押さえ、企業が取り組む理由を整理しましょう。
ここでは、JASSOの仕組みを中心に、導入の背景と傾向を詳しく解説します。
制度の概要と仕組み
奨学金返済支援制度は、企業が従業員の奨学金返済を一部または全額肩代わりする福利厚生の一つです。
主な仕組みとして、JASSOが2021年に導入した代理返還制度があります。
これは、企業が従業員の奨学金を直接JASSOに送金し、従業員の負担を軽減する制度です。
対象は第一種(無利子)と第二種(有利子)奨学金で、上限額はありません。
新卒や若手社員を対象として、一人あたり月額1万円程度の支援を行うことが一般的です。
申請はJASSOへの登録後、従業員の奨学金番号を提出するだけで完了し、運用の方法もシンプルです。
この制度の導入により、従業員は経済的なプレッシャーから解放され、仕事に集中しやすくなるでしょう。
また、企業側も税制優遇を受けられるなどのメリットを得られます。
企業が制度を導入する背景
企業が制度を導入する背景には、人材不足の深刻化があります。
少子高齢化により有効求人倍率が上昇し、特に若手人材の確保を課題とする企業が増えました。
この課題を解消するための施策として、奨学金返済支援制度を取り入れる企業が増加したのです。
また、社会的責任(CSR)の観点から、教育機会の均等を支援する動きも強まっています。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」に沿った施策として奨学金支援制度を導入し、企業イメージの向上を図る企業も多いです。
導入が進む業界・企業規模の傾向
特に金融やIT、建設業では制度の導入が進んでいます。
たとえば、金融業界のあおぞら銀行では、新卒者の奨学金のうち5%を3年間にわたり支援しており、採用力を強化しました。
人材不足が慢性化した企業ほど制度との相性が良いでしょう。
奨学金返済支援が従業員満足度に与える3つの影響
奨学金返済支援が従業員満足度に与える影響は、大きく次の3つです。
それぞれのポイントを解説します。
① 経済的ストレスの軽減による心理的安心感
② 企業への帰属意識・ロイヤリティの向上
③ モチベーション・エンゲージメントの向上
① 経済的ストレスの軽減による心理的安心感
経済的ストレスは、若手社員のメンタルヘルスを害するリスクがあります。
奨学金返済支援制度の導入により、経済的ストレスを軽減し、心理的安心感を生み出すことが可能です。
若手社員が心理的安心感と経済的なゆとりを得ると、スキルアップや資格取得といった自己投資がしやすくなります。
結果として、仕事のパフォーマンスが向上し、企業への貢献度が高い従業員を育成できるでしょう。
② 企業への帰属意識・ロイヤリティの向上
奨学金返済支援制度は、「自分を支援してくれる会社」という信頼感を育みます。
結果として会社への帰属意識が上昇し、ロイヤリティの向上が見込めることもメリットです。
そのため、離職率の低下を目標として、奨学金返済支援制度を導入する企業も少なくありません。
③ モチベーション・エンゲージメントの向上
奨学金返済支援制度を導入すると、社員の心理的な不安が減少するため、モチベーションやエンゲージメントを向上させた状態で仕事に取り組むでしょう。
これが社員の成長を促すことにもつながるほか、企業文化の活性化も実現しやすくなります。
企業文化・働きやすさにどう影響するのか?
奨学金返済支援制度は、企業文化と働きやすさにどう影響するのでしょうか。
ここでは、4つのポイントから制度による波及効果を解説します。
支援制度が生み出す「心理的安全性」
奨学金返済支援制度は、従業員の心理的安全性を生み出します。
特に若手社員の場合、奨学金返済が経済的負担となり、将来への不安からネガティブになりがちです。
制度の導入により心理的なゆとりが生まれると、仕事にも余裕を持ちやすくなり、創造的な環境を構築しやすいでしょう。
「支え合う文化」「挑戦を後押しする文化」の形成
制度は「支え合う文化」を形成し、互助の風土を育てます。
また、「挑戦を後押しする文化」として、リスクテイクを奨励できることもメリットです。
これらの文化は、多様な人材の活躍を下支えし、持続的な成長を実現する要素となるでしょう。
奨学金支援を通じた“企業の価値観”の明確化
支援制度の導入により、企業の価値観を内外へ明確に提示できることも魅力的です。
従業員を大切にする価値観を明確に示すことにより、社員のロイヤリティが向上し、外部からの企業への評価も高まるでしょう。
ほかの福利厚生との相乗効果
支援は、住宅手当や教育支援といった福利厚生との相乗効果を発揮します。
住宅手当との組み合わせは、生活基盤の強化につながり、従業員の満足度が高まるでしょう。
また、教育支援では、スキルアップが加速し、キャリアパスが広がります。
結果として、総合的な働きやすさが向上するのです。
従業員満足度が上がる理由
奨学金返済支援制度は、特に若手社員の経済的な負担を軽減し、精神的な余裕を生み出すため、従業員満足度(ES)向上に直結します。
データと実例をもとに詳細を見てみましょう。
奨学金返済支援制度の導入効果に関する調査
内閣府の「地方公共団体における奨学金返還支援取組状況について(令和5年度)」によると、制度を実施する自治体の割合は、都道府県ベースで89.4%です。
このデータは、特に地方都市において、人材流出を防ぐ重要な施策として定着していることを示しています。
若手社員の離職率低下や採用応募数の増加
奨学金返済支援制度は、特に就職直後の生活基盤が不安定な若手社員にとって、目に見えるメリットをもたらす経済的な支援策です。
制度導入企業において、若手社員の平均離職率が導入前よりも低下したとの報告例が目立ちます。
また、マイナビの「2026年卒 大学生キャリア意向調査6月<奨学金について>」によると、奨学金の返済が企業選択に影響を受けたと回答する学生は47.7%に達しました。
学生の企業選択に奨学金返済支援制度の有無が影響することは明らかであり、充実した制度は従業員満足度の向上に直結します。
企業ブランド・エンゲージメントスコアの上昇事例
一例として、株式会社サイバーエージェントでは、エンゲージメントの高い人材確保を目的に、奨学金返済補助を行っています。
これは、社員ファーストの企業文化を体現する福利厚生として浸透しており、企業ブランドとエンゲージメントスコアの上昇に役立っているのです。
導入企業の実際の声
たとえば、伊藤忠商事株式会社では、制度について「長期的なキャリア形成を支援し、若手社員の早期離職を防いでいる」との声が目立ちます。
また、愛媛県では、県内の特定企業に就職・定着することを条件に奨学金返済支援を実施中です。
これにより「県外への若手流出を防ぎ、県内企業の人手不足解消に貢献している」と評価する声が聞かれます。
奨学金返済支援制度を導入する際の注意点
奨学金返済支援制度を導入する際、以下の4点には注意が必要です。
それぞれのポイントを解説します。
・税制面での注意(課税扱いの可能性・手当としての扱い)
・対象者・支援額・条件設計のポイント
・社員間の公平性・制度理解の浸透
・導入後の効果測定(満足度アンケート・定着率など)
税制面での注意
企業が社員に提供する奨学金返済支援金は、原則として給与所得として扱われ、課税対象となる可能性があります。
非課税とするためには、企業が奨学金返済を直接行うなどして非課税要件を満たすなどの対策が必要です。
対象者・支援額・条件設計のポイント
制度の持続性と公平性を保つための条件設計を行いましょう。
対象者は「入社から3年間」「正社員のみ」など、限定的な設計を検討することも大切です。
支援額は企業の財務状況に合わせて、無理のない範囲で決定しましょう。
また、勤続年数や業績評価と支援条件を紐付けることにより、定着効果がさらに高まります。
社員間の公平性・制度理解の浸透
奨学金制度を利用していない社員との間で、公平性に関する疑問が生じる可能性があります。
精度を人材投資の一環として位置付けて全社員に浸透させ、企業全体の成長を支援する制度であるとの理解を深めましょう。
導入後の効果測定
制度の費用対効果を測るために、導入後の効果測定は欠かせません。
制度導入前後での満足度の変化や貢献意欲の変化をアンケートで測定しましょう。
また、離職率や応募数のモニタリングも行い、どのような効果が見られるか確認することが大切です。
奨学金返済支援を企業ブランディングに活かす方法
奨学金支援は、単なる福利厚生の枠を超え、企業の理念や社会貢献の姿勢を示す重要なブランディングツールとして活用できます。
高価を最大化させるためのポイントを4つ見てみましょう。
SDGsやESGの観点からの意義
奨学金返済支援は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」や目標8「働きがいも経済成長も」に直結します。
ブランディングへの活かし方として、企業は年次報告書やサステナビリティレポートにおいて、SDGsアイコンとともに紹介すると良いでしょう。
投資家向けに「ESGスコア向上のための具体策」として位置付けると、より強固な信頼も獲得できます。
「人を大切にする企業」としてのメッセージ発信
奨学金支援制度は、社員一人ひとりの成長を長期的に支える姿勢を示すことにより、「人を大切にする企業」というメッセージを発信できます。
これをブランディングに活かすには、社内報やWebサイトで「奨学金返済支援で夢を実現した社員の声」を取り上げると良いでしょう。
SNSやYouTubeを活用してインタビュー動画を配信すると、拡散効果にも期待できます。
採用広報・IRとの連携
採用市場が厳しい中、奨学金支援は新卒・中途採用の強力なアピールポイントとなります。
求人ページには、補助額や期間、対象者などの情報を明確に記して、他社との差別化を図りましょう。
IRにおいては、東京証券取引所の「人的資本情報開示」要件に沿って、施策を「人材育成投資」として報告することがポイントです。
社員の定着率向上データを提示すると、強いエビデンスになります。
社会的共感を生むストーリーテリングの重要性
ブランディングのカギは、数字や制度説明を超えたストーリーを作ることです。
奨学金支援を一人の社員が奨学金返済のプレッシャーから解放され、革新的なプロジェクトをリードした話として語ることにより、社会的共感を呼び起こせます。
奨学金バンクとは?企業の働きやすさを支援する日本初の仕組み
奨学金バンクとは、企業による奨学金返済支援制度の導入と運用をサポートする日本初のプラットフォームです。
ここでは、奨学金バンクの仕組みについてわかりやすく解説します。
日本初の奨学金返還支援プラットフォーム
奨学金バンクは、アクティブアンドカンパニー株式会社が運営する日本初の奨学金返還支援プラットフォームです。
奨学金返済を抱える学生や若手社会人を対象に、返済負担を軽減できる企業とのマッチングを促進しています。
奨学金バンクの3つのサービス
奨学金バンクのサービス内容は、主に以下の3つです。
①奨学金返還型人材紹介サービス(人材獲得支援)
②奨学金返還支援サービス(エンゲージメント支援)
③サステナ支援サービス(ブランディング支援)
採用から定着、ブランディングまでをカバーし、包括的な支援を実現しています。
奨学金バンクが目指す未来
奨学金バンクが目指すのは、奨学金返済を理由に挑戦を諦めない社会の実現です。
奨学金返済のプレッシャーから解放することにより、転職や起業といったキャリアチェンジや結婚・出産・住宅購入といったライフイベントを実現しやすいように導いています。
この未来像は、企業、若者、社会の三者が連動する持続可能な人材循環を生み出すでしょう。
最終的には、奨学金が借金ではなく、投資と位置付けられる未来が訪れるかもしれません。
奨学金返済支援制度を「働きやすさ改革」の一環として活用する
奨学金返済支援は「働きやすさ改革」の柱として位置付けられる制度です。
具体的なポイントや中小企業が制度を導入するためのステップをご紹介します。
人的資本経営との親和性
人的資本経営とは、人材を資産として育成・活用する考え方です。
奨学金返済支援は、人的資本経営との親和性が高い施策と言えます。
導入企業は社員のスキルアップを促進するため、教育投資の具体例として内外へアピールできるでしょう。
リテンション・ウェルビーイング施策との統合
奨学金返済支援制度は、リテンション(定着促進)とウェルビーイング(幸福感向上)との親和性も高い施策です。
返済支援をメンタルヘルスケアや柔軟勤務といった施策と結合することにより、相乗効果が期待できます。
中小企業でも導入できる現実的なステップ
中小企業が奨学金返済支援制度を導入するまでのステップは次のとおりです。
①社内ニーズの調査
②奨学金バンクなどパートナーとの提携
③導入テストの実施と効果測定
④本格運用の開始
ノウハウ不足に不安を抱えている企業だとしても、奨学金バンクなどのパートナーと提携するとスムーズに制度を導入できます。
まとめ
奨学金返済支援制度は、現代の若者が抱える奨学金返済への不安を解消する福利厚生の一つです。
採用力や定着率を強化できることに加えて、人的資本経営という新しい価値観の表現・実現に向けた施策にもなります。
奨学金バンクと提携することにより、制度をスムーズに導入できるでしょう。