奨学金といえば、返済義務がつきものだと思っている人は少なくない。実際、多くの学生が卒業と同時に数百万円の「借金」を背負い、社会人生活のスタートを切っている。しかし、その一方で、地域に根ざした返済不要の奨学金も確実に存在し、未来への道を照らしている。佐賀県東部を支える「大電教育振興会」の取り組みは、その象徴とも言える。
この振興会は、電線・ケーブルメーカー「大電」が地域貢献の一環として設立した公益財団法人だ。主に佐城・三神の2地区を対象に、経済的な理由で学業の継続が困難な高校生・大学生を支援しており、2025年度も約20人を上限に無償の奨学金を給付する。高校生には月2万2000円、大学生には月3万円が支給される仕組みだ。
注目すべきは、これらの支援に一切返済義務がないという点だ。返さなくてよい奨学金というのは、経済的に厳しい家庭の学生にとって大きな希望となる。将来の返済の心配をせず、学びに集中できる環境は、本人の学業成果だけでなく、将来的な地域社会への貢献にもつながっていく。
この取り組みは単なる「学費援助」にとどまらない。振興会は教材の寄贈や、生涯学習・文化活動を支える団体への助成金も展開しており、地域全体の教育と文化の発展に力を注いでいる。つまり、個人の支援と並行して、学ぶ場所そのものの価値向上にも取り組んでいるのである。
都市部に比べて進学や就職の選択肢が限られる地域では、こうした地元企業と教育機関が連携した支援は特に意義深い。地元の若者が「学び続けられる」「夢をあきらめなくていい」と思える環境は、地域にとって最大の資産だ。
奨学金返済に悩む学生が全国に数多く存在する今、「返済不要」の奨学金制度の存在と価値が、もっと広く知られてほしい。地域社会が若者を信じて支える姿勢こそ、次世代を育む大きな力である。大電教育振興会のような取り組みが、全国にもっと広がっていくことを願いたい。