日本学生支援機構(JASSO)の利率見直し方式などを利用して奨学金を借り入れる場合、数年ごとに金利が見直され、契約時よりも金利が上がる可能性があります。
奨学金の金利が上がると、想定以上に月々の返済額が増え、返済が困難な状況に追い込まれるリスクもあるでしょう。
この記事では、奨学金の金利が上がるとどうなるのか、返済負担を軽減するポイントとあわせて解説します。
奨学金の金利とは?基本的な仕組みを解説
金利の変動について知る前に、まずは金利とは何か、基本的な仕組みを整理しておきましょう。
奨学金の種類によっては、そもそも金利が発生しない場合もあります。
まずは、利用予定もしくは利用している奨学金の種類を調べたうえで、金利の計算方法や固定金利と変動金利の違いを知ることが大切です。
金利が適用される奨学金の種類
金利が適用される奨学金は、貸与型奨学金かつ有利子の奨学金です。
貸与型奨学金とは、将来的に返済する義務が生じる奨学金を表します。
日本で最も利用されている日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を例に挙げると、第一種奨学金は無利子、第二種奨学金は有利子です。
つまり、JASSOから奨学金を借りる場合、第二種奨学金を利用すると金利が発生します。
奨学金金利の計算方法
先述した日本学生支援機構(JASSO)を例に取り、奨学金金利の計算方法を解説します。
このケースでは「元利均等返済方式」が採用されており、これは月々の返済額が一定になるように調整される方式です。
また、金利の適用は卒業時などの貸与が終了した時点から開始されます。
奨学金の利息の計算方法は、基本的に以下の通りです。
<利息の計算式>
・元金残高×適用金利÷12ヶ月
仮に貸与総額が300万円で、金利が年1.0%の利率固定式、返済期間が20年間と仮定しましょう。
この場合の計算方法は「300万円×1%÷12ヶ月」のため、初回の利息額は2,500円です。
実際に支払う金額は、元金に利息を追加した金額になるため注意しましょう。
固定金利と変動金利の違いとは?
金利の種類は「固定金利」と「変動金利」の2種類です。
このうち、変動金利には、将来的に金利が上昇する可能性があります。
固定金利は、契約時に定められた金利で固定され、返済が完了するまで変動することはありません。
そのため、毎月の返済額が一定で、返済計画を立てやすいことがメリットです。
一方、変動金利と比較して金利が高めに設定されています。
変動金利は、数年ごとに金利が見直される方式です。
金利の見直しにより、契約時の金利のまま維持される可能性もありますし、金利が上昇する可能性も、反対に下落する可能性もあります。
将来的に金利が上昇した場合、固定金利よりも返済総額が増える可能性があることが注意点です。
奨学金の金利が上昇するとどうなる?具体的な影響を解説
変動金利の奨学金を利用する場合、将来的に奨学金の金利が上昇する場合があります。
金利が上昇した場合、奨学生はどのような影響を受けるのか、具体的に見てみましょう。
毎月の返済額への影響
金利が上昇した場合、毎月の返済額に影響が出ます。
返済額は金利の上昇率によって異なりますが、先月10,000円だった返済額が今月は11,000円になるといった変化が起こり得るのです。
上昇するのはあくまでも利息分に限られるため、返済額が増えたとしても、元金が減るスピードは変わりません。
総返済額の増加について
金利が上昇すると、元金に上乗せされる利息が増えるため、返済開始当初の予定よりも総返済額が増えてしまいます。
毎月の返済額を固定している場合、返済額に占める利息の割合が増えて元金が減りにくくなるため、返済期間が長引く可能性があることも注意点です。
家計への負担が増加するリスク
先述した事情により奨学金の返済額が増えると、家計への負担が増加します。
収入と支出のバランスがギリギリの場合、奨学金を滞納するリスクにも直面するでしょう。
生活費や娯楽費、貯蓄に回せるお金が減り、将来設計に影響を与える可能性も考えなければなりません。
金利が上がる原因とは?背景を知ることで対策を考える
奨学金に限らず、住宅ローンなどの金融商品にも変動金利型が採用されており、将来的に金利が上がる可能性があります。
そこで気になるのは、そもそもなぜ金利が上がるのかでしょう。
ここでは、金利が上がる背景をご紹介します。
金利が変動する仕組み
金利が変動する原因として挙げられるのは、日本銀行が決定する「政策金利」です。
日銀が政策金利を上げると、日銀から融資を受ける金融機関に影響が生じます。
インフレが発生した場合は政策金利の引き上げが、デフレが発生した場合は政策金利の引き下げが行われることが一般的です。
政策金利が上がると、金融機関が日銀に支払う利息が増えるため、日銀からお金を借りにくくなります。
これが原因で市場に出回るお金が減り、奨学金の金利も上昇するのです。
日本の経済状況と金利の関係
先述した通り、奨学金の金利が上昇しやすいのは、日本の経済状況がインフレ傾向にある場合です。
2025年現在の日本はインフレ傾向にあり、日銀が長年にわたって続けた大規模金融緩和策による「マイナス金利政策」を撤廃しました。
これにより、金利上昇のリスクが高まっています。
世界的な金利動向が奨学金に与える影響
日本国内のみならず、世界情勢も奨学金の金利に影響を与える場合があります。
たとえば、世界的に金利が上昇している場合、日本の投資家が海外で投資を行う確率が上がり、円の価値が下がって円安の進行につながるでしょう。
これが原因で、日銀が政策金利を引き上げざるを得なくなる可能性があるのです。
反対に、世界情勢の乱れにより金融市場が混乱に陥ると、安全資産とされる日本円の価値が上がり、円高が進む可能性があります。
円高が極端に進んだ場合、日銀は大規模金融緩和策を復活させる可能性があり、その場合は奨学金の金利が下がる可能性も考えられるでしょう。
奨学金の金利上昇による返済負担を軽減する方法
奨学金の金利上昇は、奨学生の力でコントロールできるものではありません。
変動金利を利用する場合、将来の金利上昇を見越して資金計画を立てる必要があります。
ここでは、金利上昇を控えた状況において、奨学金の返済負担を軽減する方法を解説します。
繰り上げ返済のメリットとデメリット
奨学金の繰り上げ返済とは、月々に定められた返済額に加えて、任意の金額を前倒しで支払って返済する方法です。
繰り上げ返済のメリットとデメリットを見てみましょう。
【繰り上げ返済のメリット・デメリット】
メリット
・元金の返済比率が上がり、総返済額が減る
・返済期間を短縮できる
・家計の安定化につながる
デメリット
・手元の資金を使うため、余剰資金が減る
・まとまった資金を用意する必要がある
・低金利または無金利ではメリットが少ない
金利に関するメリットとしては、返済期間の短縮を挙げられます。
金利が上昇する前に奨学金を完済できれば、完済後に大幅な金利上昇が発生したとしても影響を受ける心配がありません。
返済期間を見直す方法
奨学金の返済期間は、先述した繰り上げ返済により短縮できるほか、反対に延長することも可能です。
日本学生支援機構(JASSO)では、一定の条件下で「減額返還制度」を利用でき、返済期間を延長する代わりに月々の返済額を2分の1〜3分の1に減額できます。
減額返還制度を適用できるのは、災害や傷病、その他経済的な事情により奨学金の返済が困難になった場合です。
制度を利用すると、金利上昇の影響は避けられないものの、月々の返済額そのものを減らせるため、奨学金の返済による経済的な負担を低減できます。
節約術や副収入を活用した返済対策
金利が上昇した場合は、節約術や副収入を駆使して差額分の費用を捻出しても良いでしょう。
たとえば、格安SIMに乗り換えて通信費を圧縮したり、外食を減らして自炊を増やしたりといった節約術には即効性があります。
近年では正社員の副業を認める企業が増えているため、隙間時間にアルバイトをしたり、クラウドソーシングで収入を得たりする対策も有効です。
奨学金の金利に関する相談先と支援制度を利用する
奨学金の金利上昇に悩んだり、奨学金の返済が困難になったりした場合、そのままの状態で放置するのは危険です。
個人信用情報機関に金融事故として記録されたり、保証人・連帯保証人に迷惑がかかったりする可能性があります。
困った時の相談先や活用できる支援制度を知っておきましょう。
奨学金返済に関する相談窓口
日本学生支援機構(JASSO)から奨学金を借りている場合は、下記の「奨学金相談センター」に電話で相談しましょう。
【奨学金相談センターの概要】
電話番号:0570-666-301
受付時間:9:00〜17:00(平日のみ)
奨学金相談センターでは、延滞や滞納に関する相談や繰り上げ返還に関する相談、後述する各種返済支援制度の相談・申請などを受け付けています。
奨学金に関する悩みが発生した場合は、まず上記の窓口に相談すると良いでしょう。
返済支援制度の活用方法
日本学生支援機構(JASSO)では、なんらかの事情により奨学金の返済が困難になった方に向けて、以下の返済支援制度を用意しています。
【返済支援制度の例】
返還期限猶予制度:病気や経済困難などの理由で活用でき、返済期限に猶予が与えられる
減額返還制度:一定の条件を満たす場合、月々の返済額が3分の1に減額される
返還免除制度:死亡や障がいにより労働できなくなった場合、奨学金の全額が免除される
いずれも、奨学金相談センターで相談・申請が可能です。
また、企業によっては福利厚生の一環として「奨学金肩代わり制度」を採用している場合があります。
この制度を利用すると、奨学金返済額の一部または全額を企業側が負担するため、返済負担を低減できるでしょう。
金融機関との交渉術
金融機関と直接交渉する場合は、早期の相談を心がけることが重要です。
滞納が長期化すると印象が悪化するため、できるだけ滞納する前に相談しましょう。
また、返済計画について、具体的な提案をすることもポイントです。
「〇月には〇円を支払えます」といった形で提案すると、誠実に相談していることをアピールできます。
奨学金金利の変動に備えるための返済計画の立て方
奨学金金利の変動に備えるためには、金利の上昇を見越した返済計画を立てることが大切です。
ここでは、家計に無理のない返済計画を立てる方法について、シミュレーションを重要視する理由も含めて解説します。
金利変動を前提としたシミュレーションの重要性
将来の返済額を予測し、金利上昇時に発生する家計への影響を把握するために、金利変動を前提としたシミュレーションを行うことが重要です。
正確なシミュレーションを行うために、まずは以下の必要情報を取得しましょう。
<シミュレーションに必要な情報>
・現在の奨学金残債
・現在の金利
・返済を開始した時期
・返済期間
・月々の返済額
金利を含む計算は複雑ですが、金融機関や日本学生支援機構(JASSO)のローンシミュレーターを利用すると簡単に計算できます。
緩やかな上昇を想定する場合、1年後の金利が0.5%上昇し、その後も1年ごとに0.1%上昇する想定でシミュレーションしましょう。
家計に無理のない返済計画を立てる方法
返済計画を立てる場合は、まず収支を可視化しましょう。
収入を把握するだけでなく、家賃や水道光熱費などの固定費、食費や交際費といった変動費の支出も整理し、月々の収支を明確にします。
固定費は、格安SIMのスマホに乗り換えたり、家賃が安い賃貸物件に引っ越したりすると節約しやすいです。
変動費は外食の機会を減らし、自炊の回数を増やすと節約できます。
現金にゆとりがある場合は、奨学金を繰り上げ返済する選択肢に加えましょう。
リスクに対応するための予備資金の確保
金利上昇により奨学金の返済額が増えると、増額分を賄うために生活費を削る必要に迫られる場合があるほか、最悪のケースでは返済が困難になります。
このようなリスクに対応するために、予備資金を確保することを意識しましょう。
必要な予備資金の目安は、生活費の3ヶ月分〜6ヶ月分です。
余剰資金があれば、金利上昇が発生した場合だけでなく、病気やけがによる休職や会社の倒産などによる失業、転職による収入の減少と言った問題が発生した時も対応できます。
金利が上昇する前に知っておきたい奨学金選びのポイント
奨学金の金利に関するリスクが気になる場合は、奨学金を借りる前に、奨学金選びのポイントを確認しておきましょう。
重要なポイントを3つご紹介します。
第一種奨学金と第二種奨学金の金利比較
日本学生支援機構(JASSO)では、第一種奨学金と第二種奨学金のいずれかを選択できます。
それぞれの金利や条件を比較してみましょう。
【第一種奨学金と第二種奨学金の比較表】
第一種奨学金
金利:無利子
金利の方式:−
金利の上限:−
採用基準:比較的厳しい
第二種奨学金
金利:有利子
金利の方式:固定金利または変動金利
金利の上限:年3.0%
採用基準:比較的緩い
第一種奨学金はそもそも無利子のため、将来的に金利が上昇する可能性がありません。
ただし、審査基準は有利子の第二種奨学金と比較して厳しいため、審査に通過しにくいことはデメリットです。
固定金利を選ぶべきか、変動金利を選ぶべきか
固定金利と変動金利のメリット・デメリットは次の通りです。
固定金利
メリット
・返済額が安定する
・金利上昇のリスクがない
デメリット
・変動金利よりも金利が高い
・金利低下によるメリットを得られない
変動金利
メリット
・借入時の金利が安い
・金利が低下すると返済額が減る
デメリット
・金利が上昇すると返済額が増える
・返済計画を立てにくい
メリットとデメリットを比較して、自分に合ったタイプの金利を選びましょう。
奨学金選びの際に確認すべき金利の条件
まずは奨学金の種類が無利子なのか、有利子なのかを確認しましょう。
有利子の場合は、固定金利か、それとも変動金利かを確認します。
また、金利の上限に歯止めが利くかどうかを確認するために、金利の上限設定があるかどうかも調べておきましょう。
まとめ
変動金利型の奨学金を借り入れる場合、将来的に金利が上昇し、月々の返済額や総返済額が増える可能性があります。
金利上昇はインフレ傾向にあるタイミングで発生しやすく、2025年現在の日本はまさしくインフレ傾向にある状況です。
奨学金を選ぶ際は、固定金利・変動金利それぞれのメリットとデメリットを比較して、自分に合ったタイプの金利を選びましょう。