「留年してしまい、奨学金の返済がスタートするタイミングで就職できない」「大学院への進学により給与を得られず、奨学金返済を行う余裕を持てない」などの理由で悩んでいる方も多いでしょう。
そんな場合に知っておくと良い制度が、奨学金の「在学猶予」です。
この記事では、進学・留年・休学でも奨学金返済を待てる制度である在学猶予について詳しく解説します。
また、スカラネットを利用した手続きの方法などもご紹介するため、まずはご自身が在学猶予の対象か、この記事で確認してみましょう。
奨学金返済の「在学猶予」とは?
奨学金返済は、原則として大学卒業の6ヶ月後からはじまります。
しかし、在学猶予制度を活用すれば、進学や留年などの事情により学業を続ける間の奨学金返済を延期することが可能です。
ここでは、在学猶予制度の概要やどのような場合に必要になるのかをわかりやすく解説します。
在学猶予制度の基本
在学猶予とは、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金利用者が、在学中の奨学金返済開始を延期できる制度です。
通常、奨学金返済は卒業の6ヶ月目後から始まります。
しかし、在学猶予を申請して認められた場合は、学業を続けている間は奨学金返済を延期することが可能です。
この制度は、学生が経済的な負担を抱えることなく、学業に専念できるようにとの思いから設けられました。
在学猶予の対象となるのは、JASSOの第一種奨学金および第二種奨学金の対象者です。
猶予期間は在学期間中となり、最長で卒業予定時期まで奨学金返済を延期できます。
たとえば、留年により卒業が2025年から2026年3月に延びた場合、奨学金返済の開始時期は、2025年10月から2026年10月に変更されます。
なお、第二種奨学金を利用している場合、猶予期間中の利息が発生しますが、利息の支払いも奨学金返済開始まで不要です。
在学猶予が必要になる具体的なタイミング
在学猶予が必要となる主なケースは以下の通りです。
・大学院などに進学した場合
・留年して卒業できなかった場合
・休学中で返還開始が困難な場合
・辞退して別の奨学金に切り替える場合
大学卒業後に大学院や専門学校に進学したり、留年や休学により卒業時期が延びたりした場合は、在学猶予を申請すると良いでしょう。
また、JASSOの奨学金を辞退し、ほかの奨学金や学生ローンの借入などに切り替えた場合、すでにJASSOから借り入れた分の奨学金返済を猶予できる可能性があります。
在学猶予を受けるためには「在学猶予願の届出」が必要
在学猶予は自動的に適用されるわけではなく、適切な手続きによる申請が必要です。
ここでは、どのような場合に在学猶予の手続きが必要か、注意点とともに解説します。
「在学猶予願の届出が必要な場合」とは?
在学猶予願は、以下のようなケースで提出が求められます。
・学校を卒業後、別の教育機関へ進学した時
・奨学金を辞退するが、すでに借りた分がある場合
・留年・休学により在学期間が延びた場合
これらのケースでは、JASSOに在学状況を証明する書類を提出し、猶予を正式に申請する必要があります。
「進級・進学しただけ」では自動で猶予されない
在学猶予制度は自動的に適用されません。
進級・進学した場合はもちろん、留年や休学といった事情によって引き続き現在の大学に残る場合も手続きが必要です。
在学中=返還猶予ではないため、JASSOに在学状況を通知しなかった場合は、通常の卒業予定時期から奨学金返済が始まるため注意しましょう。
また、異なる学校に進学する場合はJASSOに在学情報を伝える必要があります。
オンラインのスカラネット・パーソナルや紙の在学届を利用して、必ず手続きを行いましょう。
スカラネット・パーソナルから在学猶予願を提出する方法
在学猶予の申請は、JASSOが運営する「スカラネット・パーソナル」から簡単に行えます。
ここでは、スカラネット・パーソナルの概要と在学猶予を申請する際の具体的な手続きの流れ、そして注意点を解説します。
スカラネット・パーソナルとは?
スカラネット・パーソナルとは、JASSOが提供する奨学金の返還管理を目的としたオンラインサービスです。
JASSOの奨学金を利用する方には、スカラネット・パーソナルにアクセスするための専用のIDとパスワードが付与されます。
スカラネット・パーソナルでは、主に以下の機能を利用できます。
・返済状況の確認
・在学猶予願や繰り上げ返済など各種制度の申請
・返還シミュレーターを用いた返済計画の立案
奨学金を効率的に管理するツールとして、あらゆる機能を活用することが可能です。
スカラネットで在学猶予願を提出する手順
スカラネット・パーソナルを利用して在学猶予願を提出する手順をご紹介します。
1.スカラネット・パーソナルにログイン
JASSOから発行されたIDとパスワードを利用してログインしましょう。
IDやパスワードを紛失した場合は、JASSOの奨学金相談センター(電話:0570-666-301)で再発行できます。
2.「在学猶予願」→ 必要事項を入力
スカラネット・パーソナルのメニューから「在学猶予願」を選択し、在学期間や進学先といった必要事項を入力して提出しましょう。
3.所属学校の証明を添付 or 送付
在学証明書や学生証といった所属学校の証明を添付してアップロードします。
オンラインでの手続きに抵抗がある場合は、郵送でJASSOに提出することも可能です。
4.JASSOにて審査 → 承認後、猶予開始
JASSOにより審査が行われ、通常は1~2ヶ月で承認または否認が通知されます。
承認された場合、指定された在学期間中の奨学金返済が猶予されます。
提出期限と注意点
返還猶予願の提出期限は、返還開始予定月の2ヶ月前までです。
仮に2025年10月から奨学金返済がはじまる場合は、2025年8月が提出期限となります。
手続きを忘れると、奨学金返済が当初の予定通りに開始される可能性が高いです。
一度奨学金返済が始まると、その後に返還猶予を申請したり、申請が承認されたりすることは原則としてありません。
時間に余裕を持って返還猶予願を申請して提出しましょう。
なお、返還猶予願の発行に必要な在学証明書などの必要書類は、在学中の学校の事務局で発行できます。
学校まで数日~数週間がかかる可能性もあるため、早めの申請をおすすめします。
スカラネット・パーソナルが利用できない場合の手続き
なんらかの事情でスカラネット・パーソナルが利用できない場合や通信制大学などに在籍している場合は、紙の「在学届」を使うと在学猶予の申請が可能です。
ここでは、スカラネット・パーソナルを利用せずに返済猶予を申請する場合の具体的な手続き方法や注意点を解説します。
「在学届」での手続き方法とは?
スカラネット・パーソナルを利用できない場合、紙の「在学届」をJASSOに郵送すると在学猶予を申請できます。
この場合の手続きの流れは次の通りです。
1.JASSOのWebサイトから「在学届」をダウンロードする
2.在学証明書や学生証のコピーを添付する
3.JASSOの指定住所に郵送する
4.審査を待ち、承認されれば猶予が適用される
スカラネット・パーソナルにログインできない方でも、JASSOのウェブサイトにはアクセスできます。
ここから在学届をダウンロードして、必要書類を添付し、指定された住所に郵送して審査結果を待ちましょう。
スカラネットが使えないケースとは?
スカラネット・パーソナルが使えないケースは、主に次の2つです。
・ID/PWを紛失した、未発行のまま卒業した
・通信教育学部・放送大学の一部など、電子認証が難しい学校に在籍している
また、海外の大学や専門学校に進学した場合も、スカラネット・パーソナルにログインできない可能性が高いです。
この場合は、先述した方法で在学届をダウンロードして、JASSOに返還猶予を申請しましょう。
「在学届」と「在学猶予願」の違いに注意
在学届と在学猶予願は混同されがちですが、目的と役割が異なる別物です。
それぞれの違いを見てみましょう。
・在学届:JASSOから提出を求められた場合に、在学状況を報告するための書類
・在学猶予願:返済開始を遅らせるために、本人の意思で提出する書類
在学届は、奨学金を継続して受け取っている学生が用意する必要のある書類です。
一方の在学猶予願は、進学や留年時に必須となります。
通信教育学部・放送大学の場合の在学猶予申請
通信制大学や放送大学に在籍する場合も、在学猶予の申請は可能です。
ただし、これまでにご紹介してきた申請方法とは必要な書類が異なるため、注意が必要です。
在学猶予の適用に向けて確認される条件も含めて、詳しく解説しましょう。
通信制大学・放送大学も猶予の対象
通信制大学や放送大学に通っている方も、全科目を履修する正規学生であれば在学猶予を申請できます。
JASSOは、学籍が認められる場合は通信教育を受けている方も在学猶予の対象としているため、これからご紹介する条件に合致する場合は、在学猶予を申請しましょう。
在学猶予が認められる条件
通信制大学・放送大学に通っていて、在学猶予の承認を受けたい場合は、以下の条件を満たす必要があります。
・全科履修生であること
・在籍証明ができること
「科目履修生」や「選科履修生」など、学位取得を目指さない学生は対象外となる場合が多いため注意しましょう。
在学猶予の対象となるのは、原則として学位取得を目指す正規の学生のみです。
また、在学中の学校が公式に発行する在学証明書や学生証を用いて、在学状況を証明する必要もあります。
証明書の準備と注意点
証明書として利用できるのは、在学証明書や学生証のコピー、あるいは学校が公式に発行するその他の書類です。
スカラネット・パーソナルにログインできる場合はオンラインで、ログインできない場合は「在学届」に必要書類を添付して郵送で申請しましょう。
通信制の学校に通っている場合、学校側がJASSOの在学猶予対象として認められているか、事前に確認が必要です。
JASSOの対象に含まれていない場合は、在学猶予の申請を行えません。
なお、放送大学に在籍している場合は、事務局に問い合わせると、在学証明書の発行手続きがスムーズに進みます。
在学猶予の対象外になるケースとは?
在学猶予は就職が予定よりも遅れた学生にとって便利な制度ですが、すべてのケースで適用されるわけではありません。
対象外となるパターンや猶予が受けられない場合もあるため注意が必要です。
ここでは、在学猶予の対象外になるケースについて、猶予が受けられないとどうなるのかも含めて解説します。
対象外になりやすいパターン
在学猶予はすべての学生を対象とする制度ではなく、学生によっては「対象外」として申請が認められなかったり、審査で否認されたりする可能性があります。
在学猶予の対象外になりやすいパターンは主に次の3つです。
・卒業して進学せず、そのまま就職した
・科目履修生や聴講生としての在籍
・進学後、在学猶予願の提出を忘れた
そもそも在学猶予は学生を支援するための制度であるため、進学せずに就職が決まり、返済能力があるとみなされた場合は制度の対象外になります。
先述した通り、学位取得を目指さない学生も制度の対象外です。
また、進学などにより学業を続行することが決まり、在学猶予の対象に含まれる方だとしても、期限までに届け出を忘れると在学猶予が適用されません。
必要書類の発行に時間を要する可能性もあるため、時間に余裕を持って申請を済ませましょう。
猶予が受けられないとどうなる?
在学猶予を受けられなかった場合は、卒業予定時期の6ヶ月後から自動的に奨学金の返済が始まります。
奨学金返済は原則として口座振替で行われるため、在学猶予を適用できていると勘違いしたまま放置すると、想定外の引き落としにより資金繰りが難航する可能性があります。
一度引き落とされた奨学金は、いかなる事情があっても返金されません。
学費や生活費の捻出が難しくなるおそれがあるため、十分に注意しましょう。
口座振替の失敗や奨学金返済に必要な資金を用意できないなどの事情により奨学金返済ができない場合は、延滞扱いとなるため要注意です。
延滞期間中は年5%の遅延損害金が加算され、奨学金の支払総額が増えてしまいます。
また、3ヶ月以上にわたり滞納を続けると、信用情報機関に延滞情報が記録される可能性があります。
これはいわゆる「ブラックリスト」に入った状態で、5~7年は延滞情報が削除されません。
そのため、この間の住宅ローンや教育ローン、クレジットカードの新規発行といった審査が著しく不利になります。
提出漏れ・トラブル時の相談窓口
在学猶予の申請を希望していたものの、提出漏れにより奨学金返済が困難になった場合など、手続きのミスやトラブルが発生した場合は、以下の「JASSO奨学金相談センター」に相談しましょう。
・ナビダイヤル:0570-666-301(平日9:00~20:00)
・ナビダイヤル以外からの通話:03-6743-6100(平日9:00~20:00)
奨学金相談センターでは、奨学金返済が困難な学生に対して、さまざまな制度による支援を行っています。
たとえば、「返還期限猶予制度」は、経済的困窮や病気などの事情で奨学金返済が困難な場合、最長10年簡にわたり奨学金返済を延期できる制度です。
そのほかにも、奨学金の返済期間を延ばして月々の返済額を3分の1または2分の1に減額する「減額返還制度」を適用できる場合があります。
奨学金返済で重要なのは、返済できない状態のまま放置しないことです。
早めに相談することにより、適切な対応策が見つかり、奨学金の滞納を避けやすくなります。
困った時はまずJASSO奨学金相談センターに電話をかけて事情を伝え、なんらかの救済策があるか調べてもらいましょう。
まとめ
奨学金の在学猶予制度は、進学、留年、休学などで学業を続ける学生が、奨学金返済の時期を遅らせられる制度です。
スカラネット・パーソナルを経由して簡単に申請できますが、通信制大学や放送大学などに通っている場合は、別途「在学届」を取得する必要があります。
在学猶予制度を適用できず、奨学金返済が難しくなった場合は、そのまま放置せずにJASSO奨学金相談センターに連絡しましょう。
返還期限猶予制度など、その他の制度を活用してピンチを逃れられる可能性があります。