
大学や専門学校の卒業を控え、就職先選びを本格化させている方は多いでしょう。
就職後に輝かしい未来が待ち受けていることに疑いの余地はありませんが、同時に「奨学金返済」という現実があることも意識しながら就職先選びを進めなければなりません。
この記事では、新卒の方が奨学金返済の負担を最小限に抑え、安心して社会人生活をスタートさせるために知っておくべき福利厚生・制度を解説します。
「給与が高いから」といった理由だけで就職先を決めるのではなく、奨学金返済を考慮した就職先選びで、将来の生活をより豊かなものにしましょう。
なぜ就職先選びで奨学金返済を考慮するべきなのか
就職先選びで奨学金返済を考慮するべき理由は、将来の人生設計に大きな影響を与えるためです。
就職先選びの初期段階から奨学金返済を考慮すると、就職後の後悔を防ぎやすくなります。
ここでは、奨学金返済を考慮するべき理由について3つのポイントから解説します。
奨学金返済が新卒の家計に与える影響
2025年現在、新卒初任給の平均は手取りで17万円~20万円と言われています。
奨学金返済額を月々3万円と仮定した場合、残る金額は14万円~17万円です。
一人暮らしをする場合、この金額の中から家賃や光熱費、食費などの生活費を捻出しなければなりません。
この結果、貯蓄を作ることが難しくなったり、自己投資に回せるお金が減ったりする可能性があります。
趣味に使うお金や交際費が削られると、精神的なストレスを抱えやすくもなるでしょう。
また、冠婚葬祭費や医療費など、緊急時の資金を捻出しにくくなることも注意点です。
物価高や生活費上昇とのダブルパンチ
近年は世界情勢の影響による物価高が続いており、物価高に起因する生活費上昇と奨学金返済がダブルパンチとなって襲ってきます。
特に都市部では不動産価格の高騰を受け、家賃の上昇も顕著です。
将来的に昇給したとしても、額面上の給与が上がると社会保険料や税金も増えるため、大幅な手取りアップにつながるとも限りません。
就職後のライフプランと返済計画の関係
奨学金返済の期間は10年~20年といった長期間に及ぶことが一般的です。
20歳前後からの10年~20年といえば、結婚や出産、住宅購入といったライフイベントに重なります。
奨学金返済が重荷になると、これらのライフイベントを迎えるハードルが高くなるでしょう。
就職先を選ぶ際に、長期的な返済計画を立てることにより、このような不安を払拭しやすくなります。
ライフイベントを気持ち良く迎えるために、いつまでに奨学金返済を完了すると良いのかを考えることがポイントです。
計画を実現できる給与と福利厚生を用意する企業への就職を目指しましょう。
奨学金返済を支援する企業の福利厚生とは
新卒で就職先を選ぶ際は、給与を比較する方が多いかもしれません。
しかし、奨学金返済を見越した就職先選びで重要なのは福利厚生の内容です。
ここでは、奨学金返済を支援する企業による福利厚生の種類と福利厚生を重視するべき理由について解説します。
奨学金返済補助制度
奨学金返済補助制度とは、企業が従業員の奨学金返済をサポートする制度です。
代表的な奨学金返済補助制度には「奨学金代理返還制度」や「奨学金返済手当」があります。
奨学金代理返還制度は、従業員を介することなく、企業がJASSOに対して直接奨学金を返還する制度です。
一定の要件を満たす場合、企業が支払った奨学金は、従業員の給与所得として課税されません。
そのため、実質的な手取りを増やす効果が最大化されます。
奨学金返済手当は、企業が毎月の給与に上乗せして、奨学金返済費用を支給する制度です。
こちらは給与所得となるため課税されますが、月々の奨学金返済負担を軽減できます。
家賃補助・住宅手当との併用で負担を減らす方法
奨学金返済支援制度がなくても、その他の手当が充実している企業に就職することにより、経済的なメリットを得られます。
たとえば、家賃補助や住宅手当を受け取れる場合は、固定費として大きな割合を占める家賃の支出を抑えられるため、家計への負担を大幅に軽減できるでしょう。
奨学金返済支援制度と家賃補助・住宅手当を併用できる場合は、さらに奨学金返済の負担を減らせます。
教育・資格取得支援とキャリアアップの相乗効果
教育・資格取得支援が手厚い企業に就職すると、キャリアアップを目指しやすくなります。
キャリアアップにより給与が上がれば、月々の奨学金返済にゆとりが生まれるだけでなく、繰上返還ができる可能性も高まるでしょう。
キャリアアップを目指す場合に注目すべき福利厚生は、資格取得費用や外部セミナー受講費用などを負担する制度があるかどうかです。
これらの支援を活用できる場合は、自己負担なしで成長に向けた自己投資ができ、自分自身の市場価値を高められます。
新卒が注目すべき返済支援制度の種類
奨学金の返済支援制度を提供しているのは、一般企業だけではありません。
地方自治体による奨学金支援制度も存在するため、種類ごとの特徴を確認しておきましょう。
自治体が提供する奨学金返済支援制度
地方自治体の中には、若者のUターン・Iターン就職を促進し、地域への定着を図るために、奨学金返還支援事業を提供するケースがあります。
仕組みとして多いのは、特定の自治体内にある企業に就職した従業員に対して、自治体が奨学金返済額の一部または全部を肩代わりするものです。
地方での就職を視野に入れている新卒の方は、志望する地域の自治体が奨学金返済支援制度を導入しているか確認しましょう。
企業独自の返済補助プログラム
人材確保や定着に力を入れている企業は、独自の返済補助プログラムを提供することがあります。
プログラムの内容は企業によって異なり、入社時に奨学金残高の一部を一時金として補助するケースや月々の奨学金返済額の一部または全部を補助するケースなどさまざまです。
奨学金返済制度を導入する企業は決して多いとは言えませんが、多くの企業が若手人材の確保や定着を課題としており、制度を導入する企業が増えています。
奨学金返済が前提のリクルートパッケージ事例
優秀な若手人材の獲得を目指し、奨学金返済を前提とした給与体系や福利厚生パッケージを用意する企業も増えてきました。
たとえば、同業他社よりも高い初任給に設定したうえで、奨学金代理返還制度の利用も認めるといったリクルートパッケージが主な事例です。
中長期的なリクルートパッケージとしては、奨学金返済期間中に昇給・昇進できるようなキャリアパスを明確に提示する事例も見られます。
奨学金返済が完了するまでの道筋が示されることにより、新卒者は安心して就職後のキャリア形成を行えるでしょう。
返済負担を軽減するための就職・転職活動のコツ
新卒の就職活動において、将来の奨学金返済を加味することが重要であるという点は先述した通りです。
しかし、どうすれば奨学金返済の負担を軽減できる企業を見つけられるのか疑問を抱いている方も多いでしょう。
ここでは、返済負担を軽減するための就職・転職活動のコツを3つご紹介します。
就職・転職サポートを活用するメリット
就職・転職サポートは、奨学金返済を考慮した就職活動において、新卒者の強力な味方となります。
担当エージェントに「奨学金返済支援制度がある企業に入社したい」と伝えるだけで、条件を満たす企業の紹介を受けられるでしょう。
これにより、就職先を探す手間を大幅に省けることに加えて、就職後のミスマッチを防げます。
また、支援制度を導入している企業の中には、非公開求人を出しているケースがあります。
非公開求人に応募できるのは、その求人を取り扱っている就職・転職エージェントを利用する方だけです。
就職・転職エージェントは無料で利用できるほか、給与や福利厚生といった条件面の交渉も担当エージェントに任せられます。
就活に不安を抱えている方も、安心して就活を進められるでしょう。
面接で奨学金返済について質問する際のポイント
面接で奨学金返済について質問する際は、具体的かつポジティブな内容にすることがポイントです。
たとえば、「御社の福利厚生に記載されている奨学金支援制度について、制度の詳細な仕組みを教えていただけますでしょうか。私の長期的なキャリアプランの実現と経済的な安定に直結すると考えており、魅力を感じております。」といった聞き方が適しています。
反対に「私には奨学金があります。返済に向けた支援制度はありますか?」といった質問の仕方は、研究が不足していると捉えられやすいためNGです。
この場合は「同業他社の福利厚生を見ると、奨学金返済支援制度を導入している企業が多く見つかります。今後、御社で同等の制度を導入する予定はありますか?」といった質問をしましょう。
奨学金返済を考慮した企業リストの作り方
企業リストを作る際の情報源は、JASSOや大手企業の公式サイト、そして奨学金支援制度を導入する企業のプラットフォーム奨学金バンクです。
リストを整理する際は、Google のスプレッドシートやExcelといったツールを活用すると良いでしょう。
企業名、業種、支援額、条件を列ごとにまとめて表示すると、制度の内容を比較しやすくなります。
奨学金返済とキャリア形成のバランスを取る方法
新卒の方は「できるだけ早く就活を終わらせたい」「とにかく給与が高い企業に就職したい」と考えがちです。
しかし、長期的な視野を持ち、奨学金返済とキャリア形成のバランスを取ることが就職を成功させるための近道と言えます。
ここでは、そのためのポイントを3つご紹介します。
返済重視かキャリア重視か?選択の考え方
奨学金返済の残高によって、選択すべき戦略は異なります。
返済額が多く、月々の返済額が家計を圧迫する可能性が高い場合は、奨学金支援や住宅手当が手厚い企業を選ぶ「返済重視」の戦略を採ると良いでしょう。
結婚や出産といったライフイベントを前向きに迎えやすくなるほか、自己投資や趣味に使えるお金を確保しやすくなるためです。
また、制度によって浮いたお金を貯金しておくと、将来的に奨学金を一括返済しやすくなります。
一方、返済残高が少なく、長期的な自己投資やスキル形成を重視したい場合は、5年後の市場価値を最大化できる企業を選ぶ「キャリア重視」の戦略を採ることをおすすめします。
理想的な企業の選び方は、奨学金返還支援制度があり、なおかつ成長過程にある業種の企業を選ぶことです。
これにより、就職後の奨学金返済負担を軽減しつつ、将来の収入アップの可能性を最大限に高められます。
収入アップを目指す転職戦略
新卒で入社した会社が奨学金返還支援制度を導入しない場合や想定していたほどの昇給を行わない場合は、収入アップを目指して転職を検討すると良いでしょう。
転職をスムーズに行うためのポイントは、新卒で就職した後にスキルを磨き、自分自身の市場価値を高めることです。
たとえば、ITスキルやコンサルティングスキルを身につければ、今後も安定して高い需要が見込める業界への転職が容易になります。
新卒で理想を満たす企業への就職が困難な場合は、最初の会社でスキル獲得を目指し、次の会社で高収入+奨学金支援を得る「二段階戦略」を立てると効果的です。
副業やスキルアップで収入源を分散する
本業の収入以外にも、副業やスキルアップで収入源を分散させることにより、奨学金返済の期間短縮を実現しやすくなります。
企業が副業を認めている場合は、スキルアップにつながる副業を選び、副収入をすべて繰上返還に充てると良いでしょう。
また、NISAやiDeCoなど、税制優遇のある積立投資を少額から始め、長期的な資産形成と並行して奨学金返済を進めることをおすすめします。
これらの方法で収入を増やすことによって、奨学金返済負担を個人レベルでコントロールしやすくなり、精神的な余裕も生まれます。
奨学金バンクの活用で広がる選択肢
新卒時や転職時に利用すると便利なプラットフォームが奨学金バンクです。
奨学金バンクは、奨学金返済を控える方を支援する専門的なサービスであり、活用すると奨学金返済の負担を抑えやすい就職先や転職先をリストアップしやすくなります。
ここでは、奨学金バンクの概要や奨学金バンクを利用するメリットをご紹介します。
奨学金バンクとは?サービスの概要
奨学金バンクとは、奨学金返済支援制度を導入している企業とその制度を求めている新卒・若手求職者をマッチングさせるための専門サービスです。
一般的な求人サイトの求人票には掲載されていない、奨学金返還支援制度の支給額や適用条件、税務上の扱いなどを比較できるため、求めている条件を満たす就職先を見つけやすいでしょう。
就職・転職支援を通じて返済負担を軽減
奨学金バンクを利用する最大のメリットは、就職・転職の専門家から、奨学金返済計画と連動したキャリアアドバイスを受けられることです。
奨学金の返済額や残高、理想とする返済計画を伝えると、それを踏まえたうえで「最も早く返済を完了させられる企業」や「最も手取りが増える企業」が提案されます。
また、奨学金支援制度の適用について、企業側と直接交渉する必要がある場合は、奨学金バンクのサポートを受けられるため、安心して選考に臨めることもメリットです。
奨学金返済という大きな不安を抱えている新卒者にとって、奨学金バンクは、経済的な安心とキャリア形成の両立を実現するための強力な後ろ盾になります。
まとめ
奨学金返済を考慮した就職先選びは、今後の人生における経済的な土台を築くうえで重要な選択です。
新卒者が後悔せずに就職先を選ぶためには、額面上の給与だけでなく、返済支援制度や住宅手当などの内容も確認し、多くの可処分所得を得られる企業を選ぶことがポイントになります。
新卒で理想とする企業に就職できなかった場合は、割り切ってスキル習得の期間と捉え、数年後の転職でキャリアアップを狙うと良いでしょう。
奨学金バンクなどの専用サービスの転職サポートは、新卒者や転職者の奨学金返済を支える強い味方となる存在です。
これらのサービスも上手に活用しながら、奨学金返済の早期完了と理想とするライフプランの実現の両立ができる企業を見つけて、就職を成功させましょう。