「大学に進学したいけれど、学費が不安」「奨学金制度の仕組みが複雑でよく分からない」──そんな不安を抱える高校生・保護者の方は少なくありません。実は、日本では大学生のおよそ二人に一人が何らかの奨学金制度を利用していると言われており、奨学金はもはや特別な人だけの制度ではなく、ごく身近な進学資金の選択肢になっています。
その一方で、「給付型と貸与型の違い」「第一種・第二種とは何か」「返済はいつからどれくらい始まるのか」といった基本を知らないまま借りてしまうと、卒業後の生活に大きな負担となるリスクもあります。
本記事では、奨学金相談や進学資金の情報提供に携わってきた専門家の視点から、奨学金制度の仕組みを、公的・民間の種類、申し込み条件、返済方法、上手な活用のコツまで、できるだけやさしく、かつ実務的に解説していきます。
奨学金制度の仕組みとは?まずは全体像をおさえる
奨学金の目的 ― 「お金が理由で進学を諦めない」ための仕組み
奨学金制度の最大の目的は、経済的な理由で進学を諦める学生を減らすことです。学ぶ意欲や能力があっても、家庭の収入状況やライフイベントによって学費を用意できないことは少なくありません。そこで設けられたのが、学費や生活費の一部を支援する奨学金制度です。日本では国や地方自治体、民間団体など多様な主体が奨学金制度を運営し、教育機会の平等を支えています。
背景には、授業料や入学金、教科書・教材費、さらには一人暮らしの家賃や光熱費など、学費と生活費の負担増があります。一方で、すべての家庭の収入が右肩上がりというわけではなく、世帯収入が伸び悩む中で「子どもの進学費用をどのように準備するか」が大きな課題になっています。そのギャップを埋める役割を担っているのが奨学金制度であり、「奨学金 制度 仕組み」を理解することは、将来の家計を守るうえでも非常に重要です。
奨学金の基本構造 ― 給付型・貸与型・公的/民間の違い
奨学金制度の仕組みを理解するうえで、まず押さえておきたいのが「給付型」と「貸与型」の違いです。給付型奨学金は返済不要の支援で、主に家計が厳しい世帯や、一定の学力・意欲が認められる学生が対象になります。一方、貸与型奨学金は卒業後に返済が必要な「借りるお金」であり、月々の返還額や返済期間などの条件を確認したうえで利用する必要があります。
また、奨学金は運営主体によっても大きく分けられます。代表的なのが国の制度である日本学生支援機構(JASSO)で、多くの大学生・専門学校生が利用しています。このほか、都道府県や市区町村が行う地方自治体の奨学金、企業や公益財団・個人による民間奨学金、そして各大学・短大・専門学校が独自に設けている学校独自の奨学金があります。同じ「奨学金」でも、返済の有無や金額、応募条件、選考方法は制度ごとに異なるため、「どの種類の奨学金を、どの組み合わせで利用するか」を比較しながら検討することが大切です。
「奨学金」と「学資保険」「教育ローン」とのざっくりした違い
進学資金の準備方法としては、奨学金以外に学資保険や教育ローンもよく検討されます。それぞれの違いをざっくり整理しておくと、制度の選び方が分かりやすくなります。まず奨学金は、学生本人が借りる(もらう)お金であり、在籍する学校や奨学金団体を通じて申し込むのが一般的です。給付型であれば返済不要、貸与型であれば卒業後に本人が返済していきます。
一方、教育ローンは主に保護者が借りるローンであり、銀行や日本政策金融公庫などの金融機関が窓口になります。奨学金とは違い、必要な学費を一括で借りられることが多く、受取時期や金額の自由度は高い反面、金利や返済期間はローン商品ごとに異なります。また、学資保険は子どもが小さいうちから保険料を積み立て、将来の進学時に祝い金や満期保険金として受け取る仕組みです。奨学金 制度 仕組み を理解する際には、これらの違いを踏まえ、「奨学金だけに頼るのか」「教育ローンや貯蓄とどう組み合わせるか」を家族で話し合うことが重要です。
日本の奨学金制度の現状:どれくらいの学生が利用している?
学生の約「2人に1人」が何らかの奨学金を利用しているデータ
日本学生支援機構(JASSO)が公表する「学生生活調査」では、大学昼間部の学生のおよそ55%前後が奨学金を利用しているというデータが示されています。これは「約2人に1人」が奨学金制度を利用しているということを意味し、奨学金がすでに特別な家庭だけのものではなく、一般家庭でも広く使われている制度であることがわかります。
また、ここで言う「2人に1人」という割合には、JASSOの貸与型・給付型に加えて、地方自治体の奨学金、民間財団の給付型奨学金、大学独自の奨学金なども含まれます。つまり「奨学金利用者=JASSOに限られた数字ではない」点に注意が必要です。複数の奨学金制度を併用する学生も多いため、統計を見る際には「どの奨学金の数字を指しているのか」を確認しながら読み取ることが大切です。
学費の高騰と家計負担、奨学金依存が進む背景
奨学金利用が増えている背景には、大学の授業料・入学金・教材費などの学費の上昇があります。国民生活センターなどの調査では、国立・私立大学ともに過去30年ほどで授業料が約1.4倍に上昇したと報告されており、家計にとって大きな負担となっています。
一方で、すべての家庭の収入が同じペースで増えているわけではありません。むしろ世帯収入は横ばい傾向が続き、「中間層」と呼ばれる一般的な家庭でも学費を現金だけで賄うのは難しくなっています。このギャップを補うため、多くの学生が奨学金に頼らざるを得ない状況になっており、奨学金依存が進みやすい社会構造であることがわかります。
「高等教育の修学支援新制度」による給付型拡充の流れ
2020年に文部科学省がスタートさせた「高等教育の修学支援新制度」により、返済不要の給付型奨学金が大きく拡充されました。この制度は、住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯を対象に、給付型奨学金+授業料・入学金の減免をセットで提供する仕組みです。
従来は貸与型が中心でしたが、この制度により返済不要の給付型奨学金が大幅に広がり、「経済的に厳しい世帯への重点支援」という方向性が明確になりました。これにより、高校生の段階で「家庭の収入を理由に進学を諦める」ケースを減らし、すべての学生が進路選択の機会を得られるようにすることが制度の目的となっています。
奨学金の種類と特徴:公的奨学金・民間奨学金・学校独自
公的奨学金 ― 日本学生支援機構(JASSO)と地方自治体
公的奨学金の中心となるのが、国の奨学金事業を担う日本学生支援機構(JASSO)です。JASSOの奨学金は、返済不要の給付型奨学金、利子なしの第一種奨学金、利子ありの第二種奨学金という3つの制度で構成されています。これらは日本で最も利用者が多い奨学金制度で、大学生の約3人に1人がJASSOの奨学金を利用していると言われています。
また、公的奨学金にはJASSO以外にも、都道府県や市区町村などの地方自治体が行う奨学金があります。給付型・貸与型ともに実施している自治体が多く、対象者は「その地域に在住している学生」「その地域出身の学生」「その地域の学校に進学する学生」など自治体によって異なります。自分が利用できる制度を探す際は、居住地・出身地・進学先の自治体名+奨学金で検索したり、自治体の教育委員会・進学相談窓口のホームページを確認すると効率的です。
民間奨学金 ― 企業・財団・個人が行う支援
民間奨学金は、企業・公益財団法人・個人などが独自に設けている奨学金です。たとえば、江副記念リクルート財団はアート・学術・スポーツといった分野で突出した才能を持つ学生を支援し、キーエンス財団は月額10万円規模の返済不要奨学金を全国規模で提供しています。さらに、DAISO財団など、経済的困難を抱える学生を対象とした給付型奨学金を実施する団体もあります。
民間奨学金の特徴は、分野特化型・高額給付型・独自選考型が多い点です。選考では成績だけでなく、「人物」「意欲」「活動実績」「将来性」などが重視されることも多く、エッセイ提出や面接が課されるケースもあります。自分の活動内容や将来の目標に合う奨学金を探すことで、学びを後押しする強力なサポートが得られます。
大学・短大・専門学校など学校独自の奨学金
奨学金の数が最も多いのは、実は大学・短期大学・専門学校が独自に実施する奨学金です。日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、奨学金制度を設けている団体の中で「学校」が占める割合は非常に高く、その80%以上が給付型奨学金となっています。
学校独自の奨学金は種類が豊富で、入試成績優遇型(特待生制度)、家計急変対応型、留学支援型、課外活動実績支援型など多様な目的に応じて設定されています。さらに、学校によっては「授業料全額免除」「半額免除」「入学金免除」など学費の大幅な軽減につながる制度もあります。
在籍予定(または検討中)の学校の公式サイトには、必ず奨学金ページが用意されています。オープンキャンパスや進学相談会でも詳細を聞けるため、学校選びの段階から奨学金情報を確認しておくことが重要です。
給付型奨学金制度の仕組み:条件・支給額・授業料等減免
対象となる世帯と「学力・意欲」基準
給付型奨学金は、主に住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯を対象とした制度で、家計が厳しい家庭の学生が進学を諦めなくて済むよう設計されています。日本学生支援機構(JASSO)の給付奨学金では、家庭の収入や資産状況によって支援区分が決まり、区分に応じた給付額が支給されます。
また、給付型奨学金には「学力基準」も存在します。目安として、高校での評定平均値3.5以上が推奨されていますが、成績だけではなく学ぶ意欲・取り組み姿勢も重視されます。レポート提出や将来の学びに対する意欲を確認する仕組みが設けられており、主体的に学ぶ姿勢があるかどうかが評価のポイントとなります。
給付額の目安と支援区分(第Ⅰ~第Ⅲ区分)
給付型奨学金の支給額は、学生の生活状況(自宅通学か自宅外か)、進学先(国公立か私立か)によって変わります。さらに、家庭の収入状況に応じて第Ⅰ区分・第Ⅱ区分・第Ⅲ区分に分類され、区分ごとに支給額が設定されます。
たとえば、第Ⅰ区分の学生は最も手厚い支援を受けることができ、自宅外通学の私立大学生であれば月額7万円台が給付されるケースもあります。第Ⅱ区分・第Ⅲ区分は、これを2/3・1/3に調整した金額が支給される仕組みです。
さらに、高等教育の修学支援新制度では、給付型奨学金の受給者を対象に、授業料および入学金の免除・減額を行う制度もセットで提供されています。国公立・私立、学部ごとに上限額が定められており、家計基準によって減免額が変動します。この仕組みにより、実質的な進学費用が大幅に軽減されるケースもあります。
給付型奨学金のメリット・注意点
給付型奨学金の最大のメリットは、返済不要であることです。卒業後の返済負担がなく、学業に集中できる環境を整えやすくなります。また、授業料・入学金の減免制度と併用できるため、進学に必要な総費用を抑えられる点も大きな利点です。
しかし、注意すべき点もあります。まず、支援の継続には「成績」「出席状況」「学修意欲」などの基準を満たす必要があるため、著しい成績不振や出席不良が続くと、給付が打ち切られる可能性があります。また、進学先の学校が文部科学省の定める対象校であるかの確認も必須です。対象校でなければ、給付型奨学金や授業料の減免制度を利用できません。
給付型奨学金を検討する際は、制度の要件をしっかり確認し、自分の状況に合った区分や制度を理解したうえで申し込みを行うことが重要です。
貸与型奨学金制度の仕組み:第一種・第二種・入学時特別増額
第一種(無利子)と第二種(有利子)の違いと併用
貸与型奨学金は、卒業後に返済が必要となる「借りる奨学金」です。なかでも日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金は、第一種(無利子)と第二種(有利子)の2種類に分かれています。
第一種奨学金は利子なしで借りられるため負担が軽い反面、家計基準や学力基準が比較的厳しめに設定されています。一方、第二種奨学金は利子がつく奨学金で、審査基準は第一種よりも緩く、多くの学生が利用しやすい制度となっています。
また、条件を満たせば第一種と第二種の併用も可能です。学費が大きくかかる私立大学や専門学校の学生は、併用で必要額を確保するケースも多く、計画的に利用することが重要となります。
貸与月額・上限額の決まり方
第一種奨学金の貸与月額は、進学先の学校の種類(大学・短大・専門学校)、国公立・私立の別、自宅通学・自宅外通学などによって細かく設定されています。たとえば、私立大学の自宅通学の場合、第一種の貸与月額は3万円・4万円・5.4万円などから選択できます。
一方、第二種奨学金は仕組みがシンプルで、月額2万円〜12万円(1万円単位)の範囲で希望額を選択できます。また、医学部・歯学部・薬学部・獣医学部など、修業年限が長く費用が高額な学部では、月額の増額(2〜4万円程度)が認められるケースもあり、必要に応じて柔軟に対応できる仕組みとなっています。
入学時特別増額貸与奨学金と借りすぎへの注意
JASSOの貸与型奨学金には、入学時のみ受け取れる入学時特別増額貸与奨学金という制度があります。これは、入学金や初年度納付金など、入学直後にまとまった費用が必要になる学生を支援するための制度で、10万円〜50万円(10万円単位)の範囲で一時金として借りることができます。
ただし、入学時の費用だけでなく、進学後の生活費や通学費をまかなうために借入額を増やしすぎると、卒業後の返済負担が大きくなります。特に第二種奨学金は金額を比較的自由に設定できるため、「必要な分だけ借りる」という意識が欠かせません。
借入計画を立てる際には、JASSOが提供している「進学資金シミュレーター」や「貸与・返還シミュレーション」を活用すると、借りる金額・返す金額・返済期間を具体的な数字で把握できます。卒業後の想定手取り収入とのバランスを考慮し、無理のない範囲で利用することが、安心して進学と学業を続けるためのポイントです。
誰が奨学金を利用できる?学力基準・家計基準・対象校の条件
対象となる学校・学生の範囲
奨学金は、高校卒業後に進学する多くの教育機関で利用できます。対象となるのは、大学(国公立・私立)、短期大学、専門学校(専門課程)、高等専門学校(4・5年次など)、大学院など幅広く、学校の種類に関係なく利用できる制度が整っています。また、制度によっては海外大学への留学支援や短期派遣プログラムを対象とするものもあります。
通信制大学や海外大学など、一般的な進学ルートとは異なる場合は、利用できる奨学金が制度ごとに異なるため、必ず事前に公式サイトや学校窓口で確認することが大切です。特に海外留学の場合、JASSOの給付型奨学金やトビタテ!など、専用の支援制度が用意されているケースがあるため、自分の進路に合った制度を探すことが重要です。
学力・家計・人物など主要な審査項目
奨学金を利用するには、制度ごとに定められた審査基準を満たす必要があります。代表的なJASSOの奨学金では、以下のような基準が設けられています。
- 学力基準:高校での評定平均値の目安(例:第一種奨学金は評定平均3.5以上など)。ただし給付型では「成績だけでなく学ぶ意欲」を評価する仕組みも取り入れられています。
- 家計基準:世帯年収や家族構成、資産額などによって判断されます。住民税非課税世帯や、それに準ずる世帯が給付型奨学金の対象となりやすい傾向があります。
民間奨学金では、学力や家計に加えて人物面(学ぶ意欲・活動実績・将来性)」が重視されるケースが多く、作文提出や面接審査が行われる制度もあります。学業以外の取り組みが評価されるチャンスでもあるため、自分の強みを活かした応募が可能です。
奨学金の対象校かどうかのチェック方法
給付型奨学金や授業料免除制度を利用するには、進学先の学校が文部科学省の「高等教育の修学支援新制度」の対象校である必要があります。対象校の一覧は文部科学省の公式サイトで公表されており、学校名で検索することで簡単に確認できます。
特に注意が必要なのは専門学校の場合です。同じ学校でも、対象となるのは「特定の学科のみ」というケースがあり、進学予定の学科が対象外だと支援を受けられない可能性があります。そのため、学校公式サイトの奨学金ページ・学生支援窓口・文科省のリストを必ず確認し、対象校・対象学科かどうかを事前にチェックしておきましょう。
申し込みの流れと必要書類:予約採用と在学採用
高校3年から始まる「予約採用」のスケジュール
奨学金の申し込みは、高校3年生の春から始まる「予約採用」が代表的な方法です。高校在学中に申し込むことで、進学後の奨学金受給を前もって確保できる仕組みになっています。
一般的な流れは以下の通りです。
- 春(高3):在籍校から奨学金募集の案内。説明会や個別相談を通じて申し込み手続きを開始。
- 夏〜秋:必要書類提出、スカラネット入力、書類審査を実施。
- 冬:採用候補者の決定通知が届く。
さらにJASSOの制度では、高校卒業後でも2年以内であれば出身校を通じて予約採用に申し込むことが可能です。浪人生活を経て進学する場合でも、出身校が窓口となるため安心して申請ができます。
進学後に申し込む「在学採用」と募集時期
もうひとつの申し込み方法が、進学先で手続きを行う「在学採用」です。大学・短期大学・専門学校などに入学した後、在籍校を通じて申し込みを行います。原則として春(4〜5月)と秋(9〜10月)の年2回募集があります。
高校在学中に予約採用で不採用になった場合でも、在学採用で条件を満たせば再チャレンジが可能です。進学後に家計状況が変化した場合や、新たに給付型・貸与型を検討する場合にも活用できます。
マイナンバー・保証人などの必要書類と事前準備
奨学金の申し込みには、制度ごとにさまざまな書類が必要となります。JASSOの例では、以下のような書類が挙げられます。
- 本人および生計維持者(父母等)のマイナンバー書類
- 所得証明書類(給与収入・自営業等によって必要書類が異なる)
- 印鑑証明書(連帯保証人を立てる場合)
- スカラネット申込用紙・同意書
奨学金の貸与型を利用する際は、返済に関する「連帯保証人」またはJASSOが提供する「機関保証」を選択する必要があります。
- 連帯保証人方式:親族を中心に頼む必要があり、印鑑証明や所得証明の準備が必要。
- 機関保証方式:保証料を支払うことで家族に負担をかけずに申し込み可能。
どちらを選ぶかは、家庭の状況や親族の協力体制によって異なるため、事前に家族で相談しておくことが重要です。
奨学金の使い道と家計管理:学費・生活費・留学費にどう使う?
奨学金の使い道に制限はある?実際の利用実態
奨学金は、JASSOをはじめ多くの制度で使い道に細かい制限がありません。学費(授業料・施設費・入学金)だけでなく、教材費・家賃・食費・通学費・生活費など、学生生活全般に広く利用できます。そのため、自宅外通学の学生は奨学金の一部を家賃に充てるケースが多く、一人暮らしの生活を支える主要な資金源になっています。
ただし制限がない分、管理が甘くなると「遊びに使いすぎて学費が払えない」といったトラブルも起こりがちです。これを防ぐために、奨学金を受け取る口座と普段使う口座を分ける、学費分は別枠で確保しておくなど、シンプルな口座管理が有効です。使い道の自由度が高いからこそ、計画的な管理が求められます。
奨学金を生活費に充てるときの家計管理のコツ
奨学金を生活費として活用する場合は、「学費」「生活費」「貯蓄」の3つに分けて管理するのがおすすめです。まずは年間の学費(授業料・施設費)を明確にし、次に毎月の生活費の上限額を設定します。
大学昼間部の一人暮らし学生の年間生活費は、平均で約182万円と言われています(家賃・食費・交通費などすべて含む)。この数字を参考にしつつ、自分の地域の家賃相場や生活スタイルに合わせて予算を組むと、無理のない支出管理が可能です。
また、定期的に支出を振り返る「月次チェック」を行うことで、気づかないうちのムダ遣いを防げます。少額でも貯蓄を続けておくと、急な出費や留学・資格取得などの将来の学びにもお金を回しやすくなります。
奨学金と教育ローンの違いと併用を考えるときの判断軸
進学資金を考える際、奨学金と教育ローンの使い分けを理解しておくことは重要です。まず奨学金は、学生本人が借りる(またはもらう)仕組みで、毎月分割で振り込まれることが多く、学期途中からの利用が可能な制度もあります。
一方、教育ローンは親が借りるローンで、必要な額を一括で借り入れるのが特徴です。日本政策金融公庫の教育一般貸付などは利用者が多く、授業料や入学金だけでなく、受験費用や生活費など幅広い用途に使えるメリットがあります。
併用を考える際は、「奨学金はいくらまで借りるべきか」「教育ローンはどこまで利用するか」という検討が必要です。奨学金は将来的に学生本人が返済する負担になるため、無理なく返済できる金額を基準に設定するのが基本です。一方、教育ローンは家計全体の収支を踏まえ、保護者の返済能力に合わせて利用額を決める必要があります。
進学費用が大きく膨らむ場合は、「入学金や初期費用は教育ローン」「毎月の学費や生活費は奨学金」といった役割分担をすると、負担を平準化しやすくなります。
奨学金返済の仕組みと注意点:返還方式・期間・救済制度
いつから返済が始まる?返還開始時期と基本のルール
JASSO(日本学生支援機構)の貸与型奨学金では、返済は「貸与終了の翌月から数えて7か月後」から開始されます。例えば、3月に貸与が終了した場合、10月から返済が始まるという仕組みです。これは、卒業後すぐではなく、就職して収入を得始める時期に合わせて返済負担を軽減するための配慮です。
返済が始まるタイミングを事前に把握しておくことで、初任給や生活費とのバランスを考えた計画を立てやすくなります。奨学金の借入額が多い場合は、特に返済額のシミュレーションを早めに確認しておくことが重要です。
所得連動返還方式と定額返還方式の違い
奨学金返済には、所得連動返還方式と定額返還方式の2種類があります。
● 所得連動返還方式
「所得連動返還方式」は、前年の所得に応じて毎年返還額が見直される仕組みです。収入が低い時期は返済額を抑えられるため、無理なく返済できるのがメリットです。一方で、返済額が少ない期間が長くなると、返済期間が長期化する可能性があります。
● 定額返還方式
「定額返還方式」は、借入総額と返済期間から毎月の返済額が一定に決まる仕組みです。収入に左右されないため、計画的に返済しやすいというメリットがありますが、収入が少ない時期は負担を感じやすくなる点に注意が必要です。
返済が苦しいときの救済制度と延滞リスク
万が一、奨学金の返済が難しくなった場合には、JASSOが用意している救済制度を活用できます。
- 減額返還制度:一定期間、毎月の返済額を減らすことができる制度。
- 返還期限猶予制度:病気・失業・収入減などの場合に返済を一時的に猶予できる制度。
- 一部免除制度:災害や特別な事情がある場合に返済の一部が免除されることがある制度。
これらの制度を利用することで、急な家計悪化にも対応できますが、延滞したまま放置するのは最も危険です。延滞が一定期間続くと、信用情報機関に登録され、将来のクレジットカード作成やローン契約に影響を与える可能性があります。
奨学金を借りる際の基本的な考え方として、「手取り月収の1割以内で返済できる額を上限目安にする」という指標があります。これは国民生活センターなどでも紹介されており、卒業後の生活を圧迫しないための重要な判断基準です。
まとめ|奨学金制度を正しく理解し、計画的な進学・返済プランを立てよう
奨学金制度は「お金が理由で進学を諦めなくていい社会」を実現するために整備された重要な仕組みです。日本では学生の約2人に1人が何らかの奨学金を利用しており、給付型・貸与型、公的・民間・学校独自など、多様な選択肢があります。それぞれに対象条件や審査基準、支給額、返済方法が異なるため、制度の特徴を正しく理解することが欠かせません。
特に給付型奨学金は返済不要で魅力が大きい一方、家計基準や学力基準の確認、対象校であるかどうかの事前チェックが必要です。貸与型奨学金は将来返済が必要となるため、進学後・卒業後の生活を見据えて「手取りの1割で返済できる範囲か」という視点で借入額を決めることが大切です。
また、返済が始まってからの負担を軽減するために、所得連動返還方式の活用や、返済困難時の救済制度(減額返還・返還期限猶予など)を知っておくことも重要です。奨学金は上手に使えば進学やキャリア形成の大きな助けになります。迷ったときは学校の学生支援窓口や公式ガイド、シミュレーターを活用し、自分に合った制度を選びましょう。
将来の進路に向けて最適な判断ができるよう、早めの情報収集と計画的な準備を進めていくことをおすすめします。