奨学金は、多くの学生の大学進学を支える重要な存在です。
しかし、卒業後に返済が始まると、毎月の負担が家計を圧迫し、将来のキャリア選択に影を落とすことが少なくありません。
特に転職を検討する際に奨学金残債が残っていると、転職後も無理なく返済を続けられるか不安になるでしょう。
この記事では、奨学金返済中の転職で押さえるべき注意点を詳しく解説します。
給与や年収だけでなく、複合的な要素から転職先を選ぶことが、奨学金返済に苦労することなく理想のキャリアを歩むためのポイントです。
奨学金返済中に転職する人が増えている理由
まずは、奨学金返済中に転職を検討・実行する人が増加傾向にある理由を見てみましょう。
奨学金利用者の現状
労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」（2019年）によると、奨学金の借入総額の平均は約324万円です。
また、同調査によると、平均的な奨学金の返済期間は14.7年と長期に及びます。
進学後の返済負担が想定以上に大きく、年収を増やすために転職を検討する人が多いです。
物価上昇・給与水準の停滞が返済負担を増大させている
奨学金の返済は固定費として月々の家計を圧迫しますが、近年の物価高により、その負担は以前よりも増しています。
慢性的な物価上昇が続く一方で、若年層の給与水準はなかなか上昇せず、実質賃金は停滞気味です。
このような経済的な余裕のなさが、将来への不安やキャリアへの不満につながり、転職が検討されやすくなっています。
転職で「収入アップ」「ワークライフバランス改善」を狙う動き
転職により収入アップを実現できれば、奨学金の返済負担を最小限に抑えられます。
また、近年では残業時間の短縮や福利厚生の充実でワークライフバランス改善を図る企業が増えており、そういった企業への転職を希望する人も多いです。
返済中でもキャリアを見直すのは“前向きな選択”
奨学金の返済があるからといって、現在の職場に不満を抱えながら勤務を続ける必要はありません。
むしろ、返済義務という経済的プレッシャーがあるからこそ、自己の市場価値を高め、収入増が見込めるキャリアパスを追求することは、前向きで戦略的な選択と言えます。
奨学金返済を抱えたまま転職する際の5つの注意点
ここでは、奨学金返済を抱えた状態で転職する際の注意点を5つご紹介します。
① 転職直後の収入減に注意
転職直後は収入が不安定になりがちです。
たとえ内定時の年収が前職より高くても、賞与の支給月や算定期間が変わると、転職1年目の実質的な収入が一時的に減少する場合があります。
毎月の奨学金返済額を賄えるだけの安定した月給が確保できるかを内定時に確認しておきましょう。
② 返済口座変更や支払スケジュールの確認を忘れずに
転職によって給与振込口座が変わる場合、奨学金の返済口座も忘れずに変更する必要があります。
口座変更が遅れると引き落としができず、個人信用情報機関に事故情報が登録されると、将来の住宅ローン審査などで不利になるため要注意です。
給料日が変わる場合も、奨学金の振替日を再確認し、必要額が口座に入金されているか調べておきましょう。
③ 転職期間中に返済猶予を申請できるケース
転職活動期間中や前職を退職してから新しい会社に入社するまでの間に無収入期間が発生する場合、奨学金の返済が一時的に困難になることがあります。
このような場合、JASSOの「返還期限猶予制度」を活用できる場合があるため、スカラネット・パーソナルから申請しましょう。
④ 企業による奨学金返還支援制度の有無を確認
近年、福利厚生の一環として、企業が従業員の奨学金返済を支援する制度（代理返還制度など）を導入するケースが増えています。
求人情報や企業説明会で制度の有無を確認し、転職先を選ぶ要素の一つに加えましょう。
⑤ 「年収だけ」で転職を判断しない
年収だけを重視して転職先を決めるのは危険です。
年収が高くなっても、残業代や福利厚生の減少、通勤費の増大、または転居を伴うことによる家賃の上昇などにより、支出が増える可能性があります。
重要なのは、奨学金返済後の手取りで、無理なく生活を維持できるかを計算することです。
転職で奨学金返済が厳しくなるケースと対策
ここでは、転職により奨学金返済が困難になるケースを有効な対策とあわせてご紹介します。
年収が下がる・賞与が減る場合の返済見直し方法
転職先によっては、給与や賞与が減り、年収が下がる場合があります。
この場合は、転職先で奨学金返済支援制度を利用できるか確認しましょう。
これまでと同じ金額を返済できなくなった場合は、奨学金を滞納する前に、JASSOによる「減額返還制度」などの救済制度の利用を申請してください。
返済猶予・減額返還制度の活用
JASSOには、経済的に返済が困難な状況を救済するための公的な制度が用意されています。
たとえば、返済期限猶予制度は、失業などの理由で返済が困難になった場合、返済を一時的に停止できる制度です。
また、減額返還制度を利用すると、返済期間を延長する代わりに月々の返済額を従来の2分の1または3分の1に減額できます。
転職後に返済トラブルを防ぐための3つのチェックポイント
返済トラブルを防ぐポイントは次の3つです。
・振替先の口座を変更する
・月々の返済日をリマインドする
・減額返還のシミュレーションを行う
転職先の給与口座が確定したら、奨学金の引き落とし口座を給与口座に合わせると残高不足による滞納を防ぎやすくなります。
年収が下がったり、生活費が上がったりした場合は、減額返還制度を利用した場合の返済額をシミュレーションし、制度の利用を検討しましょう。
返済に追われないための固定費見直し・副収入の工夫
奨学金返済をスムーズに行うためには、収入を増やすだけでなく、支出を減らす工夫も重要です。
通信費、保険料、住居費といった固定費を見直すと、返済に充てられる金額を増やせます。
また、転職先の就業規則で認められている場合は、副業による副収入を得ることも検討しましょう。
「給与だけ」で転職を決めるリスクとキャリア設計の考え方
先述したように、給与だけで転職先を決めるのはリスキーです。
ここでは、重視すべき年収以外のポイントについて解説します。
給与アップ＝返済余裕ではない
給与アップは魅力的で喜ばしいことですが、奨学金の返済に余裕が出るとは限りません。
収入が増えると社会保険料や税金も増え、思いどおりに手取りを増やせないためです。
また、転職に伴い引越しをすると、家賃が上がるなどの理由で生活費が増える可能性もあります。
キャリア価値を「年収」ではなく「市場価値」で考える
キャリア価値を測る上で重要なのは、年収ではなく市場価値です。
市場価値とは、自身のスキルや経験が将来的に生み出す価値を示します。
転職先ですぐに年収が増えなくても、自身が成長する環境に身を置くと、将来の再転職で大幅な年収アップを目指せるでしょう。
奨学金返済を“負債”でなく“投資”と捉える視点
奨学金はしばしば「負債」として重く捉えられがちですが、本来は「自己の教育と将来の可能性への投資」によって得られたものです。
その投資に見合うリターンを選べる企業に転職することが重要なため、一時的な収入源を許容することも検討しましょう。
ライフプランに合わせたキャリア戦略を描く
奨学金の返済期間は長く、その間に結婚、出産、住宅購入などの大きなライフイベントが発生します。
これらのイベントにかかる費用やタイミングを考慮せずにキャリアを決めてしまうと、後々大きな経済的負担が生じる可能性があるでしょう。
奨学金返済が終わるタイミング、次のライフイベントを迎える時期、そしてそこまでに必要な資金を逆算しながら転職先を選ぶと、キャリアアップとライフプランの整合性を取りやすくなります。
奨学金返済とキャリア設計を両立させる3つのポイント
ここでは、奨学金返済とキャリア設計を両立させるポイントを3つご紹介します。
① 手取りよりも「返済後の可処分所得」で判断する
転職先の比較で重要なのは、返済後の可処分所得です。
手取りから奨学金返済額や生活費を差し引いた可処分所得を比較して転職先を選ぶと、生活にゆとりが生まれます。
② 奨学金返済シミュレーションで将来の負担を把握する
転職先の想定年収がわかったら、JASSOの奨学金返済シミュレーションに情報を反映させて、将来の負担を計算しましょう。
これにより、先述した可処分所得を正確に把握できます。
③ 奨学金返還支援制度を活用してキャリアの幅を広げる
可処分所得を増やすポイントは、奨学金返還支援制度を導入する企業に転職することです。
この制度を活用すると、一定期間にわたり奨学金返済額の一部または全額を企業側が負担してくれるため、可処分所得を増やせます。
奨学金返還支援制度とは？【企業が返済をサポートする仕組み】
ここでは、先述した奨学金返還支援制度とは何か、さらに詳しく解説します。
奨学金代理返還制度
奨学金返還支援制度とは、企業が従業員の代わりに、奨学金返還額の一部または全額をJASSOに直接振り込む制度です。
一定の要件を満たすと、企業が負担した金額が従業員の給与所得として課税されないという税制上の優遇措置を適用できます。
企業が返還を代行する「奨学金返済支援」の仕組み
企業がこの制度を導入する場合、まずJASSOに支援企業として登録し、従業員との間で支援に関する合意を得ます。
その後、企業は給与とは別に、合意した返還支援額を直接JASSOに振り込むことが、制度の基本的な仕組みです。
企業側のメリット
若手人材に対して「経済的な支援を行う」という明確なメッセージを送れるため、他社との差別化につながり、優秀な人材を獲得しやすくなることが企業側のメリットです。
また、従業員の生活基盤を安定させることにより、離職率の低下も防ぎやすくなります。
従業員側のメリット
奨学金返済額分の経済的な支援を受け取れるため、生活が安定することが従業員側のメリットです。
返済の心理的プレッシャーから解放されるため、仕事に集中でき、自身のスキルアップや資格取得など、キャリアの次のステップに挑戦しやすくなります。
奨学金バンクとは？日本初の奨学金返還支援プラットフォーム
奨学金バンクは、企業による奨学金返還支援の導入と運用を専門的に支援し、奨学生と支援企業の最適なマッチングを実現する日本初のプラットフォームです。
ここでは、奨学金バンクとは何か、概要やサービス内容を詳しくご紹介します。
奨学金返還型人材紹介サービス
奨学金バンクは、奨学金返還支援制度を導入している優良企業と奨学金返済を抱える求職者を結びつける人材紹介サービスを提供しています。
これにより、奨学金返済に理解があり、可処分所得を増やせる企業への転職を実現しやすくなるでしょう。
奨学金返還支援サービス
企業がJASSO等の奨学金団体の代理返還制度をスムーズに導入・運用できるよう、制度設計から手続き代行し、従業員への周知に至るまでをトータルでサポートしています。
これにより、企業は制度の導入に向けた煩雑な手続きをスムーズに進められるでしょう。
サステナ支援サービス
奨学金問題は、日本社会における教育格差や経済格差と密接に関連しています。
そのため、企業の奨学金返還支援はSDGsの達成にも貢献する社会貢献活動です。
奨学金バンクは、この取り組みを企業のサステナビリティ活動として取り入れるための支援も行っています。
奨学金バンクが目指す社会
奨学金バンクが目指すのは、「奨学金の返済額」や「現在の年収」といった短期的な経済事情に左右されず、誰もが本当にやりたい仕事、成長できるキャリアを選択できる社会です。
奨学金を抱えた若者たちが、萎縮することなく、積極的にキャリアに投資し、社会を牽引できる環境づくりに貢献しています。
奨学金返済を支援する企業を選ぶ際のチェックポイント
ここでは、奨学金返還支援制度を導入する企業の中から、自身に最も合った転職先を見つけるポイントをご紹介します。
求人情報で「奨学金返還支援」の有無を確認
企業の求人情報や採用ページにおいて、「福利厚生」「手当」の項目に「奨学金返還支援制度」や「代理返還制度」の記載があるか確認しましょう。
記載がない場合でも、企業説明会や面接の場で質問すると、それに相当する制度が紹介される可能性があります。
支援金の上限・対象条件をチェック
制度の条件は企業によって異なります。
支援金の上限額や支給対象となる従業員の条件を確認して、十分な支援を受けられるかチェックしましょう。
代理返還制度を導入しているか
奨学金に関する支援制度はさまざまですが、最も重視すると良いのは「代理返還制度」です。
これは企業が従業員の奨学金返済額をJASSOに直接送金する制度であり、支援された金額は非課税となるため、可処分所得を増やせます。
SDGsや若手育成に積極的な企業文化かどうか
支援制度の有無だけでなく、その企業が若手社員の育成やキャリア形成に積極的に投資し、社会貢献やSDGsに価値を置く企業文化を持っているかを確認しましょう。
奨学金返還支援は、単なる福利厚生ではありません。
これは企業が未来に投資する姿勢の表れであり、長期的な働きやすさや自己成長の機会を得られるかどうかを判断する重要な指標となります。
奨学金返済を機に“働き方”を見直す
奨学金返済を機に働き方そのものを見直すことが重要です。
そのためのポイントを3つご紹介します。
在宅勤務・副業・時短など多様な働き方の広がり
近年は在宅勤務や時短勤務、副業を認める企業が増えてきました。
多様な働き方を認める企業を選ぶことにより、ワークライフバランスを重視してプライベートを充実させたり、副収入を得て奨学金返済負担を減らしたりすることが可能になります。
返済額に合わせたライフスタイル最適化
自身の奨学金返済額を毎月の固定費として位置付け、その返済額を確保するために、家賃、食費、交際費などのライフスタイルにかかる費用を見直しましょう。
返済を優先する期間を明確に設定し、その期間内は浪費を抑えるなど、メリハリのある金銭管理を行うことが重要です。
「奨学金を理由に挑戦できない」をなくす選択肢
奨学金返済があるからいって、給与が高いだけの不本意な仕事を選んだり、「転職はリスクが高い」と考えて転職を諦めたりすることは避けましょう。
奨学金返還支援制度の活用や適切な公的制度の利用によって、奨学金による負担を軽減しながらキャリアアップを実現できます。
まとめ
奨学金の返済義務を負いながらの転職は、慎重な計画と判断を要します。
しかし、奨学金返還支援制度を活用できる企業を選ぶなどの対策により、返済負担を軽減しながらキャリアアップを実現することは可能です。
「奨学金バンク」のサポートを受けると、自身に最適な転職先を見つけやすくなるでしょう。
